累計122万件出荷!自然食品・自然療法・エコロジー・らくなちゅらる提案サイト

中川信男の多事争論

「多事争論」とは……福沢諭吉の言葉。 多数に飲み込まれない少数意見の存在が、 自由に生きるための唯一の道であることを示す

プレマ株式会社 代表取締役
ジェラティエーレ

中川信男 (なかがわ のぶお)

京都市生まれ。
文書で確認できる限り400年以上続く家系の長男。
20代は山や武道、インドや東南アジア諸国で修行。
3人の介護、5人の子育てを通じ東西の自然療法に親しむも、最新科学と医学の進化も否定せず、太古の叡智と近現代の知見、技術革新のバランスの取れた融合を目指す。1999年プレマ事務所設立、現プレマ株式会社代表取締役。保守的に見えて新しいもの好きな「ずぶずぶの京都人」。

【Vol.54】3.11に福島を考える

投稿日:

今年の一月、家族と一緒に福島を再訪問しました。震災直後の混乱期に支援のために訪問していたころからずいぶん時間が経ちました。私が行くことが出来なくなってからは、スタッフの末武が福島に常駐し、支援の要望をお伺いしたり、被害の調査や聞き取をしたりと、福島で生きる皆さんの横でずっと寄り添っていてくれました。

今回、このことを書くにあたって、悩みに悩みました。もう、私の思考のほとんどが福島の出来事をどう捉え、どう向き合い、そしてどのように未来を見いだすのかということに占領されていたと言っても過言ではありません。ほとんど何も手につかず、やるべきことの狭間で、自分の無力を悔いました。そのうえ、簡単に結論など出ないことを、誰と会っても口を開けば福島のことばかりで、さぞかし融通の利かない面白くない人だったことでしょう。私たちのように自然食の流通を仕事にするものにとっては、原発事故で傷ついた福島の再生と支援について口にすることは一種のタブーのようになっているとも言えます。食の安全という意味合いからだけ見るならば「汚染された地域に明るい未来など、ずっと先まで来ないのだから、もっと遠くのどこかで何とかした方がいい」「この世界で事業をするのなら、そこには触れない方がいい」という、割り切った声も充分承知しています。それでもなお、私がそのように単純に割り切れない理由は、「もしそれが自分の大切な場所や、大切な人たちのところで起きたことだったとすれば」そして「私たち大人は子どもたちに何を残すのだろうという」という2つです。

私には1歳から15歳までの5人の子がいます。それはかけがえのない命であり、なんとしても守り育てていくのが親のつとめです。スタッフの子どもたちも会社の行事を通じて、その成長をよく知っています。学校にも幼稚園にも、私たちの地域にも、どこにでも子どもたちがいて、福島にも線量の高低を問わず、多くの子どもたちが毎日を暮らしています。この、愛するすべての子どもたちが向き合うであろう未来を考えるとき、壊れた原発や飛び出した放射性物質のみならず、多大な国と地方の借金が待ち受けています。どちらも親やそれ以前の世代が作ってしまったことには違いなく、その責任は特定の誰かの過ちを非難するだけでは決して解決しません。福島から避難した大人世代の中にも「早く健康被害が生じた方が、経済的補償も受けられるのに」という意見すらあります。原発城下町の一部では、「いくら被害が出ようとも、国や電力会社が面倒をみてくれるだろう」という期待まであるそうです。

その一方で、事故よりもずっと前から「子どもたちのために農薬を減らし、または使わず安全でおいしい農産物を作ろう」、「補助金や助成金は期待しないで地域で自立した経済をつくろう」と必死で生きてきた良心のかたまりのような生産者もいます。彼らもまた、実に厳しい状況にあります。もちろん、子を持つ親なら例え微量といわれようとも、原発から飛び出した放射性物質を我が子の口に入れたくないと思うのは当然のことです。国や自治体の測定には信頼性が乏しく、メディアに操作された情報の中で何も信じたくないと思う気持ちも起きるでしょう。それでもなお、福島を愛し、子どもたちのために全力を尽くしてきた大人たちが生きていることもまた事実です。彼らは毒を塗ったお金で生きるのではなく、自分たちの力で再起をかけようと寝る間も惜しんで線量を確認し、次に何が出来るだろうかと研究しています。安全を考えるならその土地を捨てなさい、それが最善の策だというほど、単純な構図ではありません。消費者VS生産者という構図にしてしまえば、隠せることがあると思う人たちが、また利権を持ち込み、お金に毒を盛ってばらまくのです。

次の時代を動かしていく子どもたちにとって食の安全と同じくらい大切なことがあります。それは、「何か起きたら遠くから悪く言い、災いには恐れおののき、問題のある箇所は分断し、敵を作って人のせいにして、困ったら誰かに要求し、問題を先送りする」という大人世代のありかたを、子どもたちに刷り込まないことです。すべての子どもたちは当事者として未来を生きます。国境すらも意味をなさない未来がやってくるとすれば、人と人との関係を何より大切にし、誰かのお金に期待しない生き方を大人が身をもって模索し続け、覚悟をもって生きていく他はないのです。

- 中川信男の多事争論 - 2012年3月発刊 Vol.54

今月の記事

びんちょうたんコム

累計122万件出荷!自然食品、健康食品、スキンケア、エコロジー雑貨、健康雑貨などのほんもの商品を取りそろえております。

びんちょうたんコム 通販サイトへ