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子どもと情緒

野村 隆哉 (のむら たかや)

1939年生まれ。京都大学農学部林学科卒業、京都大学大学院農学研究科博士課程中退。京都大学木質科学研究所助手。京都大学退官後、株式会社野村隆哉研究所、アトリエ・オータン設立。専門分野は木材物理学、木文学。木工作家。木のオモチャ作りもおこなう。朝日現代クラフト、旭川美術館招待作家。グッドデザイン選定、京都府新伝統産業認定。楽器用材研究会主宰。著作として『木のおもちゃ考』『木のひみつ』などがある。

【Vol.33】自然との対話

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これまで述べてきたように、私達現代人のほとんどは好むと好まざるに関わらず自然と切り離された環境で生活している。それゆえ、よほど強い意志を持って自然とのかかわりを意識し行動を起こさないと自然とは疎遠になってしまうだろう。

長女が生まれたとき、どこへ行くのも私がおんぶして出掛けた。日曜日になると、家から7km離れた宇治田原にある平家の落ち武者部落と伝えられる高尾(こおのお)に遊びに行くのであるが、自転車のハンドルに犬の綱をくくりつけ、背中に子供をおんぶし女房も自転車で出掛ける。その珍妙な姿に驚いて車は徐行するものだから天瀬ダムの道は車の行列になった。高尾の集落は、山の上にあって人事と自然が渾然と一体になった正に桃源郷で、四季折々の花々が咲き乱れていた。この集落は、昔から生花に用いる花木、蔬菜の種、宇治の三尾(高尾、二尾、池ノ尾)と呼ばれる煎茶の銘茶の生産に加え、古老柿(ころがき)の産地で、四季花々の絶えることがない。この美しい桃源郷で黄昏まで過ごした。

長女が3歳の頃、小さな建売住宅に引っ越したが、家の裏手の東南に開けた土地が女房の叔母の土地で80坪ほどをプレゼントして頂けた。遊び盛りの娘や周囲の同じ建売に引っ越してきた子供たちのためにこの土地を公園として解放することにした。
40坪を芝生にし、残りを花壇として高尾同様四季折々の花々で満たした。3、4歳児以下の幼児にとって40坪の芝生は十分な広さで、終日遊び戯れていた。アメリカン・コッカスパニエルのビッキーは、子供たちのよき仲間になってくれたが、この犬は、私が大学院の博士課程に在学時研究室の秘書をしていた女性の家で飼われていた。飼い方を間違っていたのだろうが、家族や使用人の区別なくやたらと噛み付くので途方にくれていたようだ。私なら飼い馴らせそうだと連れてきた履歴がある。京都大学の構内で犬を飼うなんて事は前代未聞であったが、幸いな事に誰にもとがめられる事はなかった。山歩きのときはリックサックに入れて電車にも乗ったりした。その犬が、嘘のように子供たちと一緒に遊ぶのである。これを見ていて、犬にも情緒の存在を感じたものだ。
花壇に植え付けた花は踏みつけたり、手折ったりしてはいけないことをルールとしたが、三歳以上の幼児はこのことをしっかり守ってくれた。その代わり、子供たちが遊び疲れて帰る頃に、小さなブーケにして持ち帰らせた。日曜日には、時々子供たちと焼きそばを作ったり、バーベキューをしたりと小さな界隈を大切に育てることを心掛けた。焼きそばやバーベキューに使う鉄板は、日頃は下水の蓋にしてあるが、その日ばかりは主役になった。

この私設公園は、次女と長男が2歳になるまでの5年間続いた。私の両親が老齢になって同居のためにこの土地にもう一軒新築することになりやむなく閉じることになったが、この間町内以外のところからも親がわざわざ幼い子供を連れて遊びに来ていた。

この間の5年間、幼児を観察していて色々の発見があった。公園として開放したとき、長女は3歳であったが自我の形成は明確で、この公園は自分の家のものであるという認識をしっかりと持っており、他の子供たちに対して何かと仕切りたがった。私がそのことをたしなめると、納得がいかない様子で不満顔をした。ところが、次女や長男は生まれた時からその環境に馴染んでいたため、何の違和感もなく周囲の子供たちを受け入れていた。

これを見て、つくづく思ったのは、「環境が人を作る。」という、これは正に箴言であるということだった。父親の考えを理解できたのだろうが、長女は仕切りたがり屋を卒業した。
子供が3人になっても高尾詣では続いた。木登りや草の土手での滑り台、ヘビやガマガエルのつかみ方。カブトムシやクワガタの居場所、ドングリにも色々の種類のあること、草花にも全て名前がつけられていること等、自然との対話を楽しませた。

古老柿の洞にフクロウが巣作りをしているのを見付けたときは、巣立ちまで一緒に観察した。このようにして、自分も含めて自然との対話を楽しんだ。子供たちは全ての生き物に対する深い愛着を身に付けてくれたのだろう。長女は、今でも平気で蛇をつかむが、女房はいまだに蛇を見ると真っ青になる。

しかし、社会全体が私の子育てと同じことをしているわけではない。それこそ、百人百様であろう。私の長女の例でも分かるように、幼い頃から人を差別することを身に付けてしまうと情緒の芽は摘まれてしまうし、意識して自然との触れ合いを伝え教えなければ虫を蛇蝎のごとく嫌うきちがいじみた大人になってしまうだろうし、花々は単なるアクセサリーで、同じ生命体ではなくなってしまう。

なんとしても、親となったら意識的に自然との対話を心掛けていただきたいものだ。

- 子どもと情緒 - 2010年5月発刊 Vol.33

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