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子どもと情緒

野村 隆哉 (のむら たかや)

1939年生まれ。京都大学農学部林学科卒業、京都大学大学院農学研究科博士課程中退。京都大学木質科学研究所助手。京都大学退官後、株式会社野村隆哉研究所、アトリエ・オータン設立。専門分野は木材物理学、木文学。木工作家。木のオモチャ作りもおこなう。朝日現代クラフト、旭川美術館招待作家。グッドデザイン選定、京都府新伝統産業認定。楽器用材研究会主宰。著作として『木のおもちゃ考』『木のひみつ』などがある。

【Vol.35】”閑話”

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今回は本題とは少し外れるが、最近私が直接関わった事柄を通して世の中全体が情緒欠乏症に罹っていることを今更ながら思い知らされたことについてお話させて頂きましょう。まず始めは宮崎県川南町で発生した口蹄疫についてです。

初動の遅れからあっという間に広がって数十万頭の家畜が殺処分されました。Wikipediaの資料によると、その恐るべき猛威は言語を絶するがこの事を宮崎県の知事をはじめ関係者は認知していなかったようです。1997年、台湾新竹市では380万頭以上の豚が殺され、被害総額は69億USドル。台湾は豚の輸出国だったが、これによって台湾の豚肉産業は崩壊しました。イギリスでは、2001年に約2000件の感染が確認され、被害総額80億ポンド(約一兆4千億円)、殺傷された家畜は1100万頭。2002年には、韓国で発生し、約16万頭が処分されています。このような情報は「対岸の火事」と思っていたのでしょう。恐るべき感性の鈍さです。それよりも、生まれながらにして食料にされる運命にある家畜をせめて生あるうちは穏やかに生きいきと育ててやるのが私達の命を支えてもらう相手に対する礼儀でしょう。口蹄疫に対する対処法を見るとあまりにも不完全、不十分な上、環境上から見ても薬害の恐れのあるものばかりです。例えば、4%炭酸ソーダ、2%苛性ソーダ、10%ホルマリン、その他にもヨウ素系、塩素系、アルデヒド系がありますが、いずれも動物に対してのみならず環境に対する負荷が大きいものばかりです。

世界中でこれほど大きな被害が出ているにもかかわらずこの程度ですから、当事者たちは経済のことだけで家畜の命は念頭になさそうです。

私の提案は、長年研究してきた炭を焼く過程で熱分解生成物として採取する木酢液、竹酢液を口蹄疫ウイルスの殺菌、治療と予防に使う方法です。これらの成分は、酢酸を主とする多成分系で、10%程度の濃度にした水溶液をプールに満たして家畜を水浴させる方法です。この方法だと全身の殺菌に加え、水浴の際口にも入るため内部からも殺菌できます。

しかし、宮崎県に提案してもこれまでの国のマニュアル以外は聴く耳を持たないようでした。川端文部大臣を通して彼の下で文部政務官をしているG君に資料とサンプルを送り、早急に対応するように頼んでいますが遅々として動かないようです。「専門家」という語は、「マニュアル通り以外何も分からない人」「単なる知識の受け売り屋」と定義できそうです。口蹄疫に対する完全な対処法は無いのですから結果は後から付いてくると考えるべきでしょう。

次は、5月29日から6月の3日まで中国の招請で「竹炭・竹酢液」に関する講演に出掛けた折の印象です。1995年、我国で初めて竹炭・竹酢液を世に出し、日本竹炭・竹酢液協会を創設しました。竹の有効利用を指導し、2001年、中国で第2回国際竹炭・竹酢液会議が開催された折、中国においても色々指導した縁で今回招かれたのですが、その中の一人である陳文照君がこの9年間で中国一の竹炭王になり、15525平米の敷地に、竹炭博物館(建築面積9641平米)を創建していました。彼は、私から受けた恩恵を忘れることなく大切にし、今回の会議の主催者である遂昌県人民政府と丁重に迎えてくれました。

10年前に私が墨書した「竹炭の郷-遂昌」という言葉が額装され、大切に飾られているのを見て感激しましたが、祖父から三代に亘って炭焼きを続けてきた陳君が竹炭で建築面積2920坪に及ぶ竹炭の総合文化施設を作り上げ、遂昌県で竹炭関連産業での就労者は5万人と聞いてただただ驚いた次第です。片や、わが国の現状は恩義どころか後足で砂をかける連中ばかり。未だに産業になっていません。この差は一体何なんでしょうか。

感性や感度は人の情緒と深く繋がっています。上述した二つの事例でお分かりと思いますが、口蹄疫の場合は、マニュアルに書かれているのとは違う初期症状のため、安易に見逃してしまったという感度の鈍さに加え、自分の職分の重さを感じない感性の欠落。中国竹炭の場合、遂昌という貧しい山村で三代に亘って炭焼きを続けてきたおかげで今日の自分があるという想いから、祖父を敬い炭祖殿を中心とする竹炭博物館を作り、竹炭・竹酢液の機能を商品にすることを教えた私の恩顧に対して報いるという豊かな感性。

牛や豚に対する「おもいやり」や「やさしさ」といった情緒の中心になるものを失ってしまった我が同胞、片や恩顧を忘れない中国の人々。この二週間の間に経験した天国と地獄は強烈な印象として残りました。勿論、中国にも天国と地獄が存在することは十分承知の上ですが、改めて情緒を育てる大切さを骨の髄まで知らされた二週間でした。

- 子どもと情緒 - 2010年7月発刊 Vol.35 -

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