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中川信男の多事争論

「多事争論」とは……福沢諭吉の言葉。 多数に飲み込まれない少数意見の存在が、 自由に生きるための唯一の道であることを示す

プレマ株式会社 代表取締役
ジェラティエーレ

中川信男 (なかがわ のぶお)

京都市生まれ。
文書で確認できる限り400年以上続く家系の長男。
20代は山や武道、インドや東南アジア諸国で修行。
3人の介護、5人の子育てを通じ東西の自然療法に親しむも、最新科学と医学の進化も否定せず、太古の叡智と近現代の知見、技術革新のバランスの取れた融合を目指す。1999年プレマ事務所設立、現プレマ株式会社代表取締役。保守的に見えて新しいもの好きな「ずぶずぶの京都人」。

【Vol.92】伝統を守るために海をこえる

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先月、私が一年半以上の時間をかけて準備してきたタイ製の「ゴールデンシルクシリーズ」の紹介をスタートすることができました。この製品の主人公は、江上さんという神戸出身の日本人男性です。神戸の貿易業は、歴史的に繊維製品を多く扱ってきました。江上さんもまた、絹を扱う商社のお父様と一緒にシルクの取引に関わっていましたが、彼の中には大きな焦りがありました。というのも、日本製の絹は高品質で非常に高価格、かたや、中国やタイ産の絹は品質はともかく、とにかく安いのです。この価格差の中で日本の養蚕業は長期低落してしまい、養蚕の技術も、絹を織り出す技術もだんだん失われていきます。 同じような話はいろいろな伝統産業でよくあることですが、とくに「天」の「虫」と書く「蚕」にまつわる技術が日本からどんどん失われてしまうことは、とても悲しいことです。蚕が餌にする桑の葉は、日本人なら誰でも懐かしいと感じる山里の風景を永く産み出してきました。農薬を必要とせず、どんどん大きくなる桑の畑が、人が住む里山周辺の生物多様性を支えてきたのです。蚕が桑を食み、そして繭を吐くことは、自然界の微妙なバランスを保ち、織物の技術を発展させ、私たちの身体を包む素材までを育みます。福島での原発事故後、空間放射能測定器や食品のベクレルモニタを支援させて頂いた福島県二本松市の有機の里東和さんも、この桑を軸とした里山再生と、農薬を使わない農業を地域ぐるみですすめ、苦労を乗り越えいろいろなことがうまく回り始めた矢先に原発のメルトダウンの憂き目に会いました。何でも化学薬品で済ませようという風潮に抗い、それが実りつつあったとき、突然の愚弄に曝さたのです。この二つの事例が示すのは、経済が地域や国のあり方に強く、否、ほぼ一体となって結びついているという事実です。

「安い電源」「安い絹」

原発は今もなお政府の認識では「安くて安定している電源」です。まだ被害の全貌もわからず、後世がどれだけの苦難を味わうか分からない段階で、原子力は安い、だから再稼働が必要との認識が復活しているのはご存じの通りです。確かにそれは一時的に安いかもしれませんが、何万年ローンか分からないものです。そんなに長期間にわたって借りを返し続けなければならないとすれば、それはほんとうに「安い」ということになるのでしょうか。養蚕も同じことで、村々から多様性が損なわれ、どこも均質、農薬や遺伝子組替えが必要な農業に一度入り込んでしまうと、もとに回帰するためには多大な苦労を必要とします。 いずれのケースも、日本で理想を叫んでみたところで、政府方針や社会の大きな流れに抗うことは極めて難しいことで、私たちがこのように主張すること自体が、ある意味において孤立の道に繋がっているともいえます。江上さんは、とにかく安ければよいという日本を一度離れ、北タイでの養蚕にトライします。日本とタイの蚕が備えた利点をハイブリッド化し、苦難を乗り越えながら素晴らしい繭の生産を安定させてきました。とはいえ、繊維製品としての金色シルクの需要は決して多くなく、チェンマイ名物のナイトバザールでゴールデンシルクの雑貨を売り続けても産業にはなりえないと自覚した彼は、極めてナチュラルなシルクスキンケアの開発に着手します。それがご紹介を開始したシリーズなのですが、最も大切なことは、金色の絹を使ったスキンケアは素晴らしいですということ以前に、江上さんが「この養蚕の技術を、いつか必要とされたときにいつでも日本に持ち帰れるように」と心に決めていることです。工房には日本から輸入された紡績機が多く保管されており、またいつか役に立つ日を北タイの地で待ち続けています。日本の養蚕に用いる道具類はそのままタイで活用され、紡績設備から織機までが「そんなものは古くさい」と市場から追い出されてしまった日本からタイに「一時避難」しているのです。このような高い志をもつ在外の日本人を応援しつづけることは、長い目でみたときに日本から消えつつある伝統文化を保全する一つの方法であると考え、弊社ではこのゴールデンシルクの各製品を応援することにしました。国などからもらう補助金や助成金のたぐいのもたらす効果は極めて短期的なもので、流通を通じて自立的に存在し続けられる「使い手(お客様)」と「作り手(生産者)」を結びつけることが、私たちの役割であり、もっとも大切な社会貢献になると信じています。

支えるのは「使い手(消費者)」

結果的に、私たちが何を選び、何を買って応援するかということが、世の中の中長期的なあり方を決定づけます。原発の電気は安いからありがたいと多くが言い出せば、国はそちらを目指すでしょう。安いことは良いことだという感覚を終わりにしない限り、志ある人たちを支えることは難しくなります。誰かが何かを通じて大きな流れとは違う第三の提案と行動を示す必要があり、その役割を私たちは忘れないように、お客様が意義ある選択をできるような提案を弊社の商品を通じてお伝えしていきたいと思うのです。

- 中川信男の多事争論 - 2015年5月発刊 Vol.92

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