見えないけれど、大切なもの

「私は、実は君たちに教えることは何もないのです。みな、君たちの知っていることばかりです。ただ、教育というもののおかげで、君たちの生れぬ前から持っている、すばらしい本能というものに多少、くもりやくるいが来ているのを注意するだけです。それから先は、君たちの自由。くるいやくもりがわかりさえすれば、そして、それがあらゆる不幸や苦しみのもとであることがよくわかれば、君たちは、それを自分で取り除くことでしょう」

 マクロビオティックを学ぶうえでバイブルともいわれる『魔法のメガネ』(桜沢如一・著)の冒頭、「自由と幸福のカギ」の文章です。
「魔法のメガネ」とは、陰陽を理解し目に見えないエネルギーの法則を知ることで、自分で判断する能力を持つことを意味します。

足るを知る

 明治維新から第二次大戦を経て現代に至るなかでの教育は、目に見えるものを重視し過ぎるあまり、日本にもともとあった思想や哲学を排してきました。いまや西洋の科学者をもってして、日本の学者たちは西洋人以上に東洋哲学に対して否定的だ、といわれるほどのようです。

 食と健康の面においても、西洋料理が主流の「豊食」が進みましたが、やがてはバブルを経験し「飽食」といわれるようになり、食が原因の病が増えてくる「崩食」の時代を迎えました。

 2013年に「和食」がユネスコ世界文化遺産に登録され、季節感豊かな食生活が見直されつつありますが、まだ一般的には「贅沢な粗食」という言葉が聞かれるほど。季節の旬の食材を活かすことからかけ離れてしまっています。
本来、季節の素材を活かすとは、収穫物に感謝することから。季節の収穫物を当たり前と思っていては感謝の気持ちは生まれません。「いただきます」という感謝の言葉を口にしてから食事を始める習慣こそ、忘れられてはならないものでしょう。

 「足るを知る」とは、感謝の心。何かに耐え辛抱するということではなく、当たり前と思っていることのなかに感謝を見出そうとする心のことです。

 ストレスが体への影響を及ぼす「ストレス学説」を唱えたカナダ人生理学者、ハンス・セリエは、晩年、現代人をストレスから救う方法についてたずねられ、「その原理は東洋にあります。感謝の原理(principle of gratitude)です」と答えたと言われています。あたり前のものに感謝をする心こそが、自身の生きがいを見出し、健康をつくるというのです。
その後、脳内化学物質に関する研究が進んだ結果、この考えが正当化されます。
感謝の気持ちを感じると脳内でセロトニンが放出され、このセロトニンがストレス物質の連鎖反応を抑制すると判明。感謝の心を持つことが健康にプラスになることが、科学の力で解明されたのです。

科学が追いついてきた

 私たち鍼灸師の診断技術の一つに脈診があります。手首の脈に触れることで体の状態を知るというものです。
この脈診、科学的ではないという理由から伝統医学のなかでもその立場が薄れつつあります。
ところが現代に入り、最先端の医学が心電図のデータを何万人分と蓄積し、その波形を解析した結果、病気や体質の傾向がわかりつつあります。これぞ脈診の原理にほかなりません。

 科学の分野でも、量子力学の世界では、素粒子の動きの法則性を見出した結果、上向きのアップ・クォーク、下向きのダウン・クォーク、法則性の見いだせない一部のストレンジ・クォークの3つに分類されるようになっています。これは「陰」と「陽」、そして「感謝の心」の3つに共通します。

 このように、かつては目には見えないものは非科学的と排されてきたものが、科学の力によって陽の目を浴びようとしているのです。過去の科学にこれらを見る能力が、まだなかっただけのことかも知れません。

 目に見えないことと、存在しないこととは異なります。そして、目に見えるものには限りがあること、また、目に見えないものほど一度なくしてしまうと取り戻せないことを、今一度、認識しておきたいものです。

nishishita-keiichi.jpg

圭鍼灸院 院長 鍼灸師
マクロビオティック・カウンセラー
西下 圭一(にしした けいいち)

新生児から高齢者まで、整形外科から内科まで。
年齢や症状を問わないオールラウンドな治療スタイルは「駆け込み寺」と称され医療関係者やセラピストも多数来院。
自身も生涯現役を目指すアスリートで動作解析・運動指導に定評がありプロ選手やトップアスリートに支持されている。
兵庫県明石市大久保町福田2-1-18サングリーン大久保1F
HP:
http://kei-shinkyu.com