時代は 無分別智医療へ(後編)

本誌でコラムを執筆いただいている先生方にも大きな影響を与えた天外伺朗さん。CDやAIBOを開発した工学博士でありながら、ソニー株式会社を退職後、医学、教育から瞑想、断食まで、さまざまな分野に精通し、著書や講演も多数。日本の長老ともいえる天外さんに、今、気になっておられることや、今後について伺うインタビュー11月号の続編です。

脳の病気が治るポイントは
足の親指と踵だった

 現在、教育関係にも関わっています。『斎藤公子メソッド』のことをご存じでしょうか。故・斎藤公子は第二次世界大戦後の混乱期から「すべての子どもたちに笑顔を」と日々の保育実践を土台に様々な研究を重ねた幼児保育家です。この世を去った後も、その保育論は広く引き継がれています。
斎藤公子の保育園では、障がい児が0歳で入ってくると、障がいがほぼなくなってしまう。脳性麻痺でも、自閉症でも、みんな治ってしまうのです。リズム遊び、自然環境のなかでの遊び、語り聞かせ、描画などいろいろなことをやるのですが、なかでもリズム遊びが特に有名で、そのとき一番使うのが「足の親指」が活性化する運動なんですね。彼女はそれを経験から発見していたのです。普通のハイハイでは親指を使わないので、別のハイハイをします。高ハイハイや、年長さんになると雑巾がけ。さらに足の親指が活性化する「両生類のハイハイ」など。ハイハイができるようになったら、すぐにトレーニングします。
両生類のハイハイは複雑な動きなんだけれども、これがどうも一番効いてるのだと。これも、前出の「個体発生が系統発生を辿る」というものの応用なんですね。両生類のころの動きをすれば脳幹が活性化する。すべてつながっているんですよね。

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脳髄液のパンピングのテンポが「治るテンポ」だった

 もう一つ。仲間内に神田橋條治という医者が鹿児島にいまして、昔はフロイト派の教科書に載ってるような有名な正統的な精神科医だった。どんな精神病でも、たちどころに治してしまうすごい人で、彼が治療しているところを特別に何度も陪席させてもらうことができたんですね。その手法をすべて話すと長くなるので端折りますが、その一つに「踵の調整」というものがあるんです。患者が来院すると「あんた脳幹が詰まってるね。どれ靴下を脱いでごらん」と言って、踵を調整する。それを見て驚きました。

 斎藤公子は親指、神田橋條治は踵、両方とも足を調整することで、脳の病気を治していると。実は、シュタイナー医学でも「脳の病気を踵で治す」とされていると後から聞いたので、神田橋條治になぜ、踵を調整するのか聞いてみました。
神田橋條治という人物は、シミュレーションができるんですね。患者の脳幹が詰まってるのが見えるし、どこをどうやったらそれが治るのかということもわかる。それで、自分のなかでシミュレーションしてきて、「踵だ」と気がついたそうなんです。シュタイナー医学とは無関係に、踵だということに気がついていた。そして、彼はその手法で効果を上げているわけです。

 かたや親指、かたや踵。両方とも足をいじって脳を治している。これは何か秘密があるのではないか。

ロルフィングと頭蓋仙骨療法にヒントがあった

 僕は、ホロトロピック・ネットワーク(胎児のころから死にいたるまで人々の「意識の成長・進化」を支援し、より豊かな人生へ導く人的ネットワーク)というものを主宰しています。ホロトロピック・ネットワーク大阪に、医者、歯医者、整体師、いろいろな理論に詳しい薬剤師がいて、さまざまな問題が起きたとき、専門の違うこの4人で話すと答えが出てくる。そこで、4人にこの秘密を解いてくれと投げておいたところ、一年ぐらいかかりましたが、おおよその答えが出てきました。
その答えは、結局、ロルフィングのアナトミートレイン(筋膜ライン)という理論と、クラニオセイクラル(頭蓋仙骨療法)の理論。この両方を使うと、親指をいじることと踵をいじることが、同じ効果があるということが考えられると。

 ロルフィングでは、足の親指は足底筋膜を通り全身の筋肉に繋がっていて、それが全部繋がって正常に動作すると、脳髄液のパンピングが整うと考えられている。クラニオセイクラルは、踵、仙骨、背中、後頭部から頭蓋骨などに触れて脳髄液の循環を促す施術で、脳髄液のパンピングが整うとされている。だから、足の親指や踵を調整すると脳が治るのは当然だということを発見してくれたのです。それで、脳髄液のパンピングが鍵であるということに気がつき、僕は、脳髄液のパンピング周期に基づく瞑想をいくつか開発しました。それで初めてわかったのは、伊藤慶二が言った「脳幹が活性化するテンポ」というのは、脳髄液のパンピングのテンポだったということ。だから、お経も脳髄液のパンピング周期で唱えろということだったのです。

医者の倫理観と意識レベルが
問われる無分別智医療

 伊藤慶二の話に戻ります。彼は、ある非常に大きな宗教団体のなかで、西洋的医療を一切やらずに、「食事療法」「意識を変えるワーク」「祈り方を変える」という3つの方法だけで、どんどん末期がんの患者も含めて治していったのですが、どうしても治らない人がいた。それは医者とその家族で、一家族を除いて全滅だった。ほかの人たちは、明日死にそうな人も、みんな治っていくのに、医者とその家族だけは治らない。たった一例だけ治ったのは、心の専門家である精神科医の家族だった。精神科医の奥さんががんになって、その精神科医は、奥さんのがんの原因のひとつが自分だとわかっていた。それで奥さんは末期がんだったけれど完癒しました。そこで、僕はそこに「社会的コアビリーフ」、つまり、「集合的一般常識」というものがあると気づいたのです。

 さて、そういった奇跡の治癒がどんどん起きていったのですが、その奇跡の治癒は全部教祖様のおかげになるわけです。その宗教団体は、もちろんそれを狙っていたのですが、そのとおりになった。
「俺が一生懸命やっても、全部、教祖様のおかげになっちゃうんだよな」と、伊藤慶二は苦笑していましたね。僕は、その治らなかった医者の話と、教祖様のおかげということで、はっと気がつきました。宗教団体というのは、「集合的一般常識」が一般の人とは違うのだということ。だから、奇跡の治癒が起きることもあれば、オウムの事件みたいなことも起きる。また、医者はやっぱり「がんになったら死ぬ」というコアビリーフがものすごく強いのだということ。だから、宗教団体のなかにあっても、教祖様のおかげにならないということに気がついた。宗教的にいうと、ある意味では「信心が足らない」ということになりますが。そんなことがあったので、僕は信念をもって語ることができるのです。

 僕は「すごいね」「本を作ろうよ」と伊藤慶二に言いました。彼は大変謙虚な、自己顕示欲の全然ない人で、意識の成長進化でいうと、僕らよりも次のステージにいってる人だから出版には興味がない。僕が勧めて出版社と交渉して、非常に優秀なライターさんをつけて書き始めたものの上手くいかず、ライターさんと喧嘩になってしまった。ライターさんは読み手にとって印象が良い書き方をするので、彼はそれが気に入らない。謙虚な人だから。出版社には大変申し訳ないことをしたのですが、途中までの費用を払い中断。結局、僕の断食の師匠の野口法蔵が自費で『病気にならない生き方(※1)』として出版した。フェイスブックで紹介したら注文が殺到し、野口法蔵がパニックになったほどの反響でした。

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※1 現在は改訂版 『病気をしない生き方』
(伊藤慶二著・よろず医療会出版)
※よろず医療会へFAXで申し込み(FAX:0263-78-3066)

分け隔てない智恵「無分別智」

 さて、肝心の「無分別智医療」の話をしましょう。分別知という言葉があります。普通は、分別があるというと褒め言葉です。人生経験を積んでいき、とんでもない判断をしなくなった人を「分別がある」といいます。ところが、仏教では「分別知」というと、物事を分け隔てて捉える、凡夫(ぼんぷ ※2)の浅はかさを指します。そういう意味では、サイエンスはすべて分別知です。だから、サイエンスというのは、凡夫の浅はかさそのものである。そうではない「無分別智」というものがあります。仏教はそんなに偉いのかという話になりますが(笑)。

 「無分別智」とは、分け隔てない知恵のことです。「正と誤」「正義と悪」「清と濁」「正常と異常」「主体と客体」などの二元性。これらを分け隔てるのは全部、分別知なのです。それを分け隔てない無分別智というものがあり、これが本来の「智慧」である。「何を偉そうなことを」と僕には理解できなかった。それが、ごく最近になって納得したのです。オーリングテストや、バイオレゾナンス学会でやっているゼロサーチというものがあります。これは、すべて「身体智」と言われるものを使っている。例えば、手に毒物を乗せてオーリングテストをすると、オーリングがぱかっと開く。体は毒であることをわかってるんですね。これが無分別智の一つだということに気づいたのです。

※2 我見にとらわれている人。自と他とを区別し自分に執着して、その差別観の中に苦悩している者。

一般論しかわからないが結果が安定している分別知医療
検知能力に長けているがノイズに弱い無分別智医療

 分別知で同じように調べようとすると、どうなるか。試料を砕いて、X線クロマトグラフィなどにかけて、成分を見つけて、データベースに参照して、「この成分があるから、これは毒である」という調べ方になる。そうすると、一般論しか出てこない。一般に人間に毒だとされるものに関してはわかるのです。

 ところがゼロサーチだと、この患者には2錠処方すればいいのか、3錠処方すればいいのか、個別の情報まで得られる。また、毒物だということがわかっているとしても、チョコレートなどに見せかけた包装などをすれば、人はすぐに誤魔化されてしまいます。でも、オーリングテストだと、包装ではごまかされない。全般的に見ると、すごい検知能力を持っているといえる。無分別智の方がはるかに素晴らしい。分別知の強みは、誰がやっても同じ結果が出るということ。無分別智のほうは、オーリングテストでも、ゼロサーチでも、ノイズに弱いんですね。下手をすると思い込みや迷信の世界に入ってしまう。検証のしようがないので、悪意を持って使えば、とんでもないことになる。ツボを売ろうと思うと簡単に売れる。そういうあやふやさを嫌って、社会全体がサイエンス至上主義に動いていったのです。

素晴らしい無分別智医療
医者の倫理観が問われる

 サイエンスで証明されないものは、全部否定されるという社会がしばらく続いてきました。でも、無分別智は大変素晴らしいものだということも知られてきて、それがすでに医療の世界に入り込んでいる。世の中は無分別智医療の時代に入っているということです。

 無分別智医療の時代に入ったとき、どうしなければならないか。それは、医者の倫理観が問われるということです。検証できないことをやるのだから、医者の倫理観と意識レベルが問われる時代に入ってきたのです。

 無分別智というものがどうやらありそうだ、それはサイエンスのように下から積み上げていくものではなく、全部わかっているものである、と。ヒンズー教的にいうと、アカシックレコードというものがあって、ありとあらゆることがすでにわかっていることが大前提で、フィルターで閉ざして、暮らしやすいレベルまで落としましょうというのが、無分別智の世界なんですね。それで「分別知をいくら追求しても無分別智にはたどり着かない」というのが、最近の僕の結論です。だから、怪しい本は売れるけど、僕はもう書きません。逆にいうと、サイエンスをいくら追求しても、無分別智にはたどり着かないよということを、これから一冊書かなきゃいけないと思っています。

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天外 伺朗(てんげ しろう)

本名・土井利忠。工学博士。東京工業大学電子工学科卒業後、42年間ソニーに勤務。CD、犬型ロボット「AIBO」などの開発を主導。音声対話能力のある2足歩行ロボット「QRIO」を開発した後、人工知能と脳科学を統合した新しい学問「インテリジェンス・ダイナミクス(動的知能学)」を提唱した。上席常務を経て、ソニー・インテリジェンス・ダイナミクス研究所(株)所長兼社長などを歴任。
現在、ホロトロピック・ネットワークを主宰。医療改革、教育改革に携わり、企業経営者のためのセミナー「天外塾」を開催。著作『運命の法則』『経営者の運力』『人材は「不良社員」から探せ』『「生きる力」の強い子を育てる』『問題解決のための瞑想法』など多数。 著書に関連した多くの分野の講演をこなすほか、瞑想、瞑想断食の指導を行う。

◆ 統合医療や瞑想断食会などの情報は
ホロトロピック・ネットワーク

◆ 経営者のための『天外塾』の情報は
株式会社 office JK

取材を終えて

 斎藤公子さんのことを知らなくても保育士経験があれば「さくら・さくらんぼ保育園」という名前を聞いたことがあると思う。私も保育士時代、リズム遊びに感激し楽譜を発注したものだ。脳幹への影響は知らなかったが、すべての動きが本当に楽しく、のびのびとしなやかなからだができあがることは体験で知っていた。クラニオセイクラルと深く関係するポラリティセラピーでは「踵のクレイドル」という手技があり、やはり脳髄液のリズムを重視する。ポラリティセラピーをしていた私には、親指と踵の調整の話も、とても合点がいった。

 『病気をしない生き方』は、現代人にとって耳の痛いこともあるが、治った症例の記述も数多く、語り口調でとても読みやすく書かれている。印象に残るのは「癌はどんな時点からでも逆転ホームランが打てる」「生命情報の蓄積は脳幹部・爬虫類的脳にしか存在しない」「一番の敵も味方も自分」の3つ。天外さんの話と同じく、不思議としっかり心に届く。生命を高める食事を意識し、天外さんが登壇されるシンポジウムでさらに学びたい。

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編集室Roots 代表
藤嶋ひじり(ふじしま ひじり)

『らくなちゅらる通信』編集担当。編集者ときどき保育士。たまにカウンセラー。日経BP社、小学館、学研、NHK出版などの取材・執筆。インタビューは1,500人以上。元シングルマザーで三姉妹の母。歌と踊りが好き。合氣道初段。