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特集

インタビュー取材しました。

たのしくなければ 人生じゃない 後編
自己決定・個性化・体験学習 きのくに子どもの村学園長 堀 真一郎先生インタビュ―

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「この勉強が将来なんの役に立つの?」
日本の通常のカリキュラムで育つと、どこかで必ず聞く言葉です。

和歌山にある「きのくに子どもの村」で育つ子には、きっと無縁の言葉でしょう。
なぜなら、プロジェクトと呼ばれる仕事のようなチームによる体験学習のなかで「かず」や「ことば」を学ぶからです。

この学校を創立した堀真一郎学園長は、現在、福井、山梨、福岡にある関連学校をご自身の車で行き来しておられます。
いくつになってもお元気な堀先生の魅力に迫る後編です。

「道徳」の教育は授業ではなく学校生活全体でおこなう

―「きのくに子どもの村」では学校全体で子ども主体のミーティングをしておられますよね。そのミーティング進行時の教員へのアドバイスとして「途中で話を意図的に導かない」「多数決を採るときは、生徒から遅れて、あとからそっと手を挙げる」などのテクニックがあるそうですが、それはどのようにして思いつかれたのですか?

堀 子どもたちが自由に発想し自発的に決めるには、大人が大声で長い時間しゃべってはいけないんですよね。これはもっとも基本的なことです。開校当初は慣れない大人がいて「あとは大人に任せてください」なんていうこともありましたが(笑)、それを言ってはいけません。

そのほか日常の細かなテクニックは蓄積されていきます。例えば、原稿用紙の書き方。普通の学校では、最初から清書するつもりで、すべての行を詰めて書いていき、間違えたら全部消して書き直さないといけないと思っている子がいます。

でも、原稿用紙には行と行の間に隙間があります。間違ったら、そこに書き改めたらいい、漢字が思い出せないなら、ひら仮名で書いておいて後からスペースに漢字を書けばいいと言ってあげます。この方法だと書けなかった子が書き始める。

「何を書いたらいいかわからない」という子が転校生には多いのですが、その場合は「困ったな」「なにを書こうかな」と書けばいい。はまると休み時間でも書いています。国語教育は自分の思いをまとめて伝えることが重要であり、漢字がいくつ書けるかではないはずなんです。

来年から小学校で道徳教育を教科にしようという動きがありますよね。教科にすれば教科書を作ることになり、教科書を作ればテストをすることになる。道徳教育の理論を考えるとき、われわれの考えと正反対の手法になってしまう。

これまでも道徳教育の時間と、全校集会の時間を読み替える形でやってきており、道徳教育は学校生活全体で行うべきだと考えています。例えば「時間を守りましょう」というテーマで1時間授業をするのが通常の学校の方法だとしたら、われわれは、「チャイムを鳴らさない」という方法をとる。チャイムが鳴らないから子どもたちは時間を守る。生活そのものなんですね。

―自発的に動くようになる……

堀 そうです。昼休みが終わる13時40分になると、それまでワーワー遊んでいた子どもたちが自然と静かになる。それは時計を意識しながら生活しているからなんです。うちの子たちは道徳的に成熟していると、外部の方によく褒められ、しつけのコツを聞かれますが、「コツは道徳の授業をしないことです」と答えています(笑)。

 

ニイルとデューイを統合理想の教育はぶれないように手法を変えつつ戦略を立てた

―柔軟でいらっしゃいますね。どんなことからヒントを得ておられますか?

堀 自分ではわかりません。長男ですので、祖母がよく褒めたり立てたりしてくれていたという環境もあるかもしれません。でも、実は、かなり強情なタイプで、学校の先生のいうことを聞かずに職員室に立たされたこともあります(笑)。嫌だったのは、こちらにも理屈があるのに、それを聞かずに「反省したら帰してあげます」と言われたこと。それが嫌というだけで2時間立ち続けました。

―先生のほうも誤算でしょうね(笑)

堀 はい。ミキハウスのイメージが定着してしまうことを懸念してくださって。すごい人ですよね。延べ6人が派遣されてきましたが、そのうち2人がきのくにで結婚しました。

―職場結婚、よくあるんですか?

堀 夕方には職員会議が始まるとわかっていました。予想通り「もういいから帰れ」と先生が言いにきて、内心「やったぜ!」と思っていました(笑)。田舎なので小学5年生~中学3年生まで5年間同じ先生でした。中学2年のとき、その先生に研修で一ヶ月不在の間、学芸会の練習をしておくように言われました。シェイクスピアの「リア王」をすることしか決まっていませんでしたが、配役を決め練習をして、最後までやり通したのはいい思い出です。僕はリア王を演じました。ずっと、いい経験をしてきたと思います。

―ニイル以外の方針にしたくなるなど迷いはなかったのでしょうか?

堀 それはぶれないようにしていました。修士論文を書いたときから、イギリスのニイルとアメリカのデューイを現場で合体させるというアイデアで、今も大筋は同じです。ただ、いろいろと細かく具体的におこなっていくには、たくさんの学校を見にいって使えそうなものはちゃっかり失敬したりしてきました。

学校を創るにも道筋は丹念にしないといけません。建物一つとっても、細かい話ですが床と窓の面積の割合が1対5、天井の高さは3メートル必要など、小学校設置基準が文部科学省で決められています。あるいは500平米以上の建物には消火栓の設置が義務付けられているなど。それを一つひとつ丹念にやり、かつ戦略も立てなければいけませんでした。融通を利かせてもらうところは利かせてもらえましたが、融通の利かない基準があるので無理なところは仕方なく変更しました。

よく聞かれるのは「学習指導要領」と教科指導と授業の関係。実は、大学の同級生が、当時、文科省にいて「学習指導要領はガチガチにできているように思えるかもしれないが、あれは相当融通が利く」とアドバイスをくれました。

学習指導要領では教科ごとに時間数が決まっていますが、きのくに子どもの村は、半分近くがプロジェクトという体験学習。調べたり書いたりするのは国語に当たり、建物を建てるときや田植えをするときに、測ったり計算したりすることが算数に当たる。そこで、教科とプロジェクトの計画と対応しているところを線で結び、表を作って時間数を合わせ提案したところ、和歌山県庁から許可が下りた。そのためきのくに子どもの村の方針は、学習指導要領の範囲内に納まっているのです。

 

―今後の展望について、お聞かせ願えますか?

堀 ありがたいことに、北は宮城から南は沖縄までいろいろな土地で「うちにも学校を作って欲しい」「きのくに子どもの村のような学校を作りたい」という声をいただいています。それだけ関心が深まってきているのでしょうね。お手伝いだけでは済まなくなる事例もあるので慎重にいかなければと思っています。 もう一つは横のつながりをつくること。表面的な気分だけでつながると、労力がかかり過ぎてしまうので、戦略も教育理念も立てたうえでつながっていくよう心がけています。そうして学校ができたところで、そこから経営していかなければいけません。もし、うまくいかないときには、放っておけないので、子どもを紹介したり、行政とのやり取りについてアドバイスしたりしています。

 

―具体的にはどんなことでしょう

堀 それぞれ事情が違いますので、一つひとつ丹念に聞いて対応しています。 もう一つ望むなら、研究所か大学院・大学のようなところで、理論的にも実践的にもちゃんとした学びの場を作れたらと思います。過去にいくつか集中講義に入ったことがあるのですが、忙しいのでもうできないかもしれませんが……。

 

―実践を語ってくださる先生は少ないので、ありがたいのではないでしょうか。実際のところを教わりたいものです。

堀 そうなんですよ。大学の先生は「子どもたちの気持ちになって接しましょう」とか言いながら、いわゆる現場を知らず、具体的にどう対応したらいいのかわからない人が多い。「何も言わずにギュッと抱きしめてあげてください」で治まることも現場では多いのですけどね。もちろんわかっている先生もおられますが。

 

―さまざまなことを乗り越えていらっしゃいますが、危機が訪れたときにモットーにされていることはありますか?

堀 基本的に危機というものは人間関係において訪れるものだと思うんですね。どの人も基本的には悪い人ではないと思って向き合う。これが一つの大切なコツではないかと思います。実は、初めて和歌山県庁にいくとき、敵陣へ乗り込む覚悟でいきましたが、意外に話を聞いてくれ本当に親切にしてもらいました。

最初から「こいつは敵だ」「打ちのめせ」という気持ちでいたのでは、うまくまとまるものもまとまらなくなります。いろいろもめていたとしても、結局のところ、最後はちゃんと治まるというつもりで、相手と向き合うことが大切なのではないでしょうか。

 

 

堀 真一郎(ほり しんいちろう)

1943年福井県勝山市生まれ。66年、京都大学教育学部卒業、69年、同大学大学院博士課程を中退し大阪市立大学助手。90年、同教授(教育学)。大阪市立大学学術博士。大学3回生のときにニイルの自由学校「サマーヒル・スクール」の存在を知る。「ニイル研究会」「新しい学校をつくる会」の代表をつとめ、92年4月、和歌山県橋本市に学校法人きのくに子どもの村学園を設立。94年に大阪市立大学を退職して、同学園の学園長に専念。宿題がない、テストがない、チャイムが鳴らない。週1回の全校集会を含むミーティングは子どもが議長。ニイルとデューイを実践において統合した教育を方針とするため自由学校を創設した。

 

 

 

 


取材を終えて

堀先生のお話には、何度も繰り返し「幸運だったんです」ということばが出てくる。すべてがとんとん拍子だったわけではないにもかかわらず、だ。私にはそれが非常に魅力的に映った。「これまで日本に存在しない小学校」を創設したという、いわばパイオニアにとっては「壁」はつきものであり、どう攻略するかを楽しんでこられたようにも受け取れるのだ。

私が子育てしていて思っていたのは「子どもは思うようにならない」という大前提。この前提があれば「子どもがいうことを聞かない」という悩みやストレスは激減する。先月号のエピソードに「いつもと違う道を歩くと興奮して楽しかった」とあるように、堀先生もきっと「思った通りではないこと」を楽しんでこられたのだ。

タイトルは「たのしくなければ学校じゃない」という、きのくに子どもの村のリーフレットをアレンジしたもの。堀先生はまさに、崖っぷちも岩場も「どうなっているんだろうか」と、楽しく攻略してこられたのではないだろうか。失礼かもしれないが、私も堀先生のような「やんちゃな大人」でありたいと思う。

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編集室Roots 代表
藤嶋ひじり(ふじしま ひじり)

『らくなちゅらる通信』編集担当。編集者ときどき保育士。たまにカウンセラー。日経BP社、小学館、学研、NHK出版などの取材・執筆。インタビューは1,500人以上。元シングルマザーで三姉妹の母。歌と踊りが好き。合氣道初段。

- 特集 - 2017年6月発刊 vol.117

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