【Vol.91】取材レポート「新万葉染め」が紡ぐ、 新しい装い

新商品「Liv:ra」。その特徴的な染めである「新万葉染め」を行うカワバタプリントの工房を訪れ、代表の川端康夫さんにお話を伺いました。Liv:ra デザイナーの小森さんの新連載と合わせてお楽しみください。

美しく、安全。唯一無二の草木染め

「草木染め」というとどんなイメージでしょうか? 渋い? 安全?
でも実はそのイメージ、間違っているかもしれません。

談:カワバタプリント 代表 川端康夫
文:らくなちゅらる通信編集部 河村

草木染めの誤解

 「新万葉染め」は、新しい草木染めです。草木染め自体は世界中に昔からあったもので、日本では着物の業界で強く残ってきました。「草木染め」という名称は、昭和初期に、合成染料との違いを明確にするために使われるようになりました。ただし、明確な定義はありません。
 新万葉染めの定義は、まったく自然な力で染めるというものです。その開発は5年ほど前、木村光雄(きむらみつお)先生という方ともに始まりました。川端さんが木村先生から教わった一番のことは、自然の力で十分綺麗な色が出るということ。草木染めというと渋い色のイメージが一般的です。しかしこれは、色素が壊れた状態なのだそうです。
 草木染めでは、原料を煮出して原料の色素が溶け出た液体で染色を行います。従来の草木染めでは、原料を煮出すのに100度まで沸騰させていました。しかしこの温度では、色素が壊れてしまいます。新万葉染めでは、まず、独自の技術で素材を非常に細かく粉砕します。これにより、色素が壊れないぎりぎりの温度、80度での染色が可能になりました。その色は、まさに植物そのもの、目に優しく瑞々しい鮮やかさです。

天然だから安全?

 天然の染料で色素を壊さない方法として他に、アルコール抽出があります。この方法では、原料を有機溶剤に溶かし水分を蒸発させて色素を抽出します。工業的な製造が可能なため、最近では特に食品を自然な染料で着色したいと、ヨーロッパで発展しています。川端さんはそういった染料を、専門家に頼んで分析したことがありました。すると、樹脂分、つまり残った有機溶剤が検出されたそうです。有機溶剤にもいろいろあるので、一概に悪いわけではありません。しかし何より、自然な力で染めるという定義には反するため、新万葉染めにはそういった染料は使用していません。
 またそもそも、天然だからすべて安全かというと、そうとも限りません。川端さんは、重要なのは量、適量であることだといいます。
 新万葉染めの共同開発者である木村先生はもともと合成染料を研究しており、ヨーロッパに水質汚染解決の指導に行かれたこともありました。染色というのは非常に海を汚すもので、それを目の当たりにし、このままでだめだと引退後に草木染めを始められたそうです。惜しまれることに木村先生は昨年亡くなられたのですが、川端さんは最後に「この新万葉染めというものを普及するのにお願いします」と託されました。

新万葉染めのきっかけ

 川端さんもかつて「安くて格好いいものを」と、特に考えずに石油系の染料を使った衣料の製造に携わってたことがありました。しかしある時、子供服に使用されていた素材を赤ちゃんが食べてしまったけれど大丈夫かという問い合わせがあり、自分の携わっているものは本当に大丈夫なのかと調べはじめ、それが新万葉染めのきっかけになりました。
 安く、経済性を優先した製品には、効率のために様々な方法が使われています。これまではそれで良かったかもしれません。需要に応えるには必要だったという面もあります。けれどこれからのことを考えると、自然に還るのに100年、200年かかるものより、1年間、1時間で還るものをというのが、新万葉染めの根本です。新万葉染めのような製品が届くのは、残念ながらまだ一部の方です。手間に見合った収入が得られるかというと、厳しい現実があります。それでも、その一部から始まる広がりを大切に、川端さんは価値を提供し続けています。

先の世代を見据えて

 川端さんの先輩たち、加工屋さんは、50~60歳ぐらいで亡くなる方が多いそうです。それほどきつい成分が使われるということであり、皆さん命がけで働いて来られたのです。
 化学変化させて別の物質になるから、消費者の手に渡るときには残っていないから大丈夫、といわれます。しかしそれはまず「適量」を守ったときの話。その知識を持たない人が扱うと危険なことになります。また、そもそも化学変化とは、不安定なもの同士がくっついて別の物質になり安定するという現象です。それは、何かの拍子に元に戻る可能性もある、あるいは毒物に変化してしまう可能性もあるということです。そういった影響は、すぐには分からなくても、おそらく先の世代に出てくるといわれています。今はぎりぎりの線で、今後危ないという現状があるというのは知っていただきたいと、川端さんはいいます。
 また、さらに理想をいえば、川端さんとしては、新万葉染めの染料の原料は、なるべく日本で栽培できるものを使いたい、たとえ天然原料であっても、自生しているものを伐採してしまうと自然を破壊するという考えがあります。この点でも新万葉染めは優れています。なんと従来のおよそ3%ほどの原料で染めが可能です。無理な伐採をせずとも、畑ひとつで十分な量の原料をまかなうことができます。
 ビジネスの仕方をいちから考え直すのにいい時代になったのではないかと、川端さんはいいます。だから、時代に合った工場に変えていこうと。今年はそんな一年を目指されてます。