【Vol.94】第7回 「土用の遊び心」

健康的な生活の秘訣、それは季節感を大切に自然の中で生かされていることを感じながら、日々の生活をきちんと送ることです。

7月、文月です。もとは「穂見月(ほみつき)」と呼ばれ、稲穂が育ち目立って見えるようになる月とされていました。稲作農耕文化の瑞穂の国、日本らしい呼び名です。古く中国では、7月は書物の虫干しをする習慣があったことから、それとも合わさって「文月」になったともいわれています。

「ままごと」で育つ女性

地方によっては夏には「お夏めし」の行事があります。またの名を「川原めし」とも呼び、川原に集まって石でかまどをつくり、鍋や釜の炊事用具を持ち寄って、お米、里芋、大根、人参、油揚げと調味料で五目御飯を炊き、柿の葉に盛り付けていただくというものです。 「飯事(ままごと)」とも呼ばれ、かつて女の子は14歳になると、この行事に参加してはじめて一人前の女性として認められました。また、嫁に行っても切り盛りの上手な女性になるようにとの願いが込められた大切な行事として伝わり、後の「ままごと遊び」の習慣はこのことに由来するようです。 地域で子育てをしていた日本ならではのコミュニティはこういうところにも垣間見えますね。

土用の丑の日

夏の食といえば、土用の丑の日に食べる鰻。夏の暑い時期に鰻を食べる習慣については様々な説がありますが、最も有名なのは蘭学者として知られた平賀源内が考え出したというもの。夏が旬ではない鰻が売れないことに困った鰻屋の相談に、「本日丑の日」と書いた貼り紙をすすめたところ、繁盛したというものです。 もともと「丑の日に『う』のつくものを食べると夏の暑さに負けない」と言われていて、馬の肉、牛の肉、うどん、梅干、瓜などを食べる習慣があったところに鰻が定着していったようです。実際に、鰻にはビタミンA・B群が豊富に含まれていて、食欲の低下を防ぎ、疲労回復の効果が期待できます。ただ、鰻の旬は、冬眠前に栄養分を蓄えていく晩秋の頃で、夏場のものはやや味が落ちるのだとか。 この土用、実は夏だけでなく春夏秋冬すべての季節にあります。具体的には、季節の変わり目である立春(2/4頃)・立夏(5 / 6 頃)・立秋(8 / 8 頃)・立冬(11/8頃)の前日までの約18日間を土用の期間と呼びます。これはたとえば、8月8日の立秋でもって秋となっても、体はいきなりはついていけません。そのため、6月の夏至を過ぎて、7月下旬に少し日が短くなってくる頃からちょっとずつ秋を迎えるための準備に入っていこうとする期間が必要なのです。 ちなみに今年の夏の土用は7月20日から8月7日までの19日間。このうち日ごとの十二支で「丑」となる日は7月24日と8月5日の2回あり、2回目を「二の丑」と呼びます。昨年は丑の日は1回だけでした。

土用のデトックス

東洋医学の現場から言うと、土用の期間には体調が安定しにくいもの。とくに手首の脈の状態で診断をする「脈診」ではこの期間に特有の脈状に触れるので、ベテランの臨床家でも迷いが出るほどの違いがでます。 体調が安定しないのは、次の季節の準備のためであり、体の免疫力はこのためにやや低下する傾向にあります。この弱った体力に栄養分を補い体質改善をはかる滋養強壮が求められてきたのも季節とともに生きてきた先人の智恵といえます。 それほど食生活が豊かでなかった時代には、特定の日に栄養をつけようとする動きがあったのもうなずけますね。季節の変わり目には体をいたわることも必要でしょう。ただ、近年の日本では、むしろ食べ過ぎによる体調不良の方が多く見受けられます。ですから土用の期間には少食にして、食べないことで胃腸を休ませてデトックスすることも体質改善にはいいかも知れません。 食欲の落ちる夏、ときには遊び心を持って、子どもたちと「飯事」をしながら体にやさしいものを丁寧にいただきたいものですね。

執筆 圭鍼灸院 院長 西下 圭一
病院勤務を経て、プロ・スポーツ選手からガンや難病まで幅広い患者層に、自然治癒力を引き出していく治療を特徴とする。
鍼灸師、マクロビオティック・カウンセラー、リーディング・ファシリテーター。