2013年11月のある日、小笠原商店・藤田社長からお電話がありました。
「自信を持って渡せるあめに仕上がったよ。これが本当のあめ色だから、楽しみにしておいてください。」
なかなか夏の暑さが収まらず、本当に秋がやってくるのかと気を揉んだ2013年でしたが、
10月の末頃、台風の来襲と共に、気温が20℃を下回り、飴の仕込みに最適な季節が一気にやってきました。
千歳飴の仕込みに昼夜追われる中、気持ちのいい秋晴れの爽やかな日に、
発売開始の初めての商品にこれ以上はない、美しいもちごめ飴を仕込んで頂きました。
小笠原商店は文政五年(1822年)の創業以来、もち米飴や千歳飴などの商品をはじめとした伝統的なお菓子を作り続けてきた老舗。
ひと釜ひと釜手作業で、じっくり煮詰める伝統的な製法をそのままに、ふくふくとした豊かな甘みをもつもち米飴を作り続けています。
その技は一子相伝。その技を引き継いだ7代目の藤田栄一さんもまた、日々研鑽を重ねる職人です。
「かつては水を求めて旅をしたよ」とおっしゃる藤田さん。
もち米と大麦麦芽だけでつくるもちごめ飴には、清涼な水が欠かせません。
原材料の品質も勿論ですが、清冽な水がない土地では飴は作れないのだといいます。
小笠原商店がある佐賀県・鹿島市は、米作りが盛んです。また霊峰・多良岳の伏流水に恵まれ、
伝統的に造り酒屋が多い名水に恵まれた土地でもあります。
もち米飴の原材料は、佐賀県産のもち米と大麦麦芽だけと非常にシンプルです。
そしてまた、もち米飴の製造工程も米を蒸し上げ、糖化させ、煮詰めるというシンプルさです。
しかしだからこそ、作り手の技術が製品の仕上がりを左右します。
もち米飴造りは、
1)もち米を蒸す、
2)鉄鍋で粥をつくる、
3)麦芽を加え、もち米のでんぷん質を糖化する、
4)完全に糖化したもち米液、糖液をなんども漉す、
5)アクを取りながら気長に煮詰める
という工程で行われます。
糖液をつくるのに1日、煮詰めるのに1日、合計2日間にわたる根気と忍耐が要求される作業です。
透き通った琥珀色の飴は、完全に糖化した頃合いを見計らい、
釜と向き合って丁寧にアクを取り除きながらじっくり煮詰めるからこそ生まれます。
しかしひと釜ひと釜、仕上がりが違うのだと藤田さんは云います。
気温の違いや湿度の違い。
ひと釜ごとに、また日によって変わる条件が、飴の仕上がりにも影響を及ぼします。
同じ材料と同じ道具を使って、同じようにつくっても、「おなじものはできんもんね」と藤田さんは云われます。
何度つくっても完璧がないのが、この仕事だとも。
もちごめ飴はつくるのではなく、まさしく育てるもの。
7代にわたって引き継がれた知恵と、そしてよりよいものをつくりたいと研究を続ける藤田さんの熱意。
職人の熱意そして経験と勘によって育てられた昔ながらのもちごめ飴は、日本が世界に誇る食の芸術だといえるでしょう。