あられを焼き上げるまでには、最低1週間。
精米から焼き上げ、味付けまで、一貫してひとりの職人が、手をかけ、心を配って焼き上げます。
一度お米を水に浸すと、どんな緊急事態が起ころうとも、商品に仕上げるまでは途中で手を止められない真剣勝負です。
流れ作業で大量生産するあられとは違い、職人の技が集結した美味しさの極みです。
京あられづくりは、精米から始まります。精米したもち米をじっくり一晩浸水させて、杵で搗き上げてから最低3日冷蔵庫で寝かせます。
搗き上げたもちを薄く削って焼き上げる「あられ」は、もちの水分が落ち着いて、削れる固さになるまで熟成する工程がとても大切です。
適度に乾いたお餅は、削っても表面に汗をかかず、かといって乾きすぎてもいません。
「冷蔵庫で最低3日寝かさないと、水分が抜けません。3日から5日の間ですね。
2日ぐらいではどうしてもまだ削ったときに汗をかくので、乾燥させるときにもち自体の水分でくっついてしまいます。
しっかりと水分を出し切ってからでないと一枚一枚が綺麗に乾いてくれないんです。」
削り取ったあられの原型である薄いお餅は、蚕棚のように何段にも重なったベルトコンベアの上で自然乾燥されます。
限られた室内に収まるようカムやギアが組み合わさった「乾燥機」は、先代がアイデアを出し開発したオリジナルだといいます。
その機械の上を、大量のあられが流れ続ける様子は圧巻です。
乾燥するまで、最低でも3日間。乾燥し切ったかどうかは、手で触れた感覚はもちろんですが、
あられが落ちたときの「プラスティックの欠片が当たるような音」でも判断します。
”チャラチャラ”と”サラサラ”の間の、乾いた、はじけるような軽い音。それが、乾燥し切った合図だそうです。
熟練の職人が持つ微妙な音を聞き分ける耳。
経験の積み重ねでしか得られない感覚が、出来上がりを左右します。
季節によって、温度によって、湿度によって・・・。乾燥し切るまでの時間は変わります。
乾燥しすぎる夏場には、頃合いをみて回収し湿度を調整したり、冬場は室内の温度を上げたりと細やかな手入れも必要です。
ボイラーや乾燥機で一気に乾燥させれば、より早く、より楽に乾燥出来るのかもしれません。
しかしどんなに手間がかかっても「自然乾燥」させるには、理由があります。
自然乾燥させたあられの原型をパキッと割ると、断面がきらっとつや光りします。
これはボイラーやガス火では、決して出ないつやです。
断面のつやは、焼きあがったあられの断面でもわかります。
網を熱して強火の遠火で焼き上げたあられの断面もまた光輝いています。
光輝く断面は、杵でつきあげ自然乾燥させて生まれたもち米本来の粘りの証拠であり、
他には真似のできない香ばしい歯ごたえや味わい深い美味しさにつながっています。
また「お砂糖が入っているのか?」と聞かれることも少なくない甘さも、
丁寧な仕事だからこそ引き出すことができたもち米本来の味です。
もち米の甘さと日本古来の調味料のみが調和した「記憶に残る味」は、
手を抜かずひとつひとつの工程を丁寧に積み重ねるからこそ生まれるものです。
たったひとりの五感と経験を頼りに仕上げられた「京あられ」。
袋を空けると漂う高い香りと、歯に当たると聞こえる高い乾いた音は、
「隠れて食べることができない」あられの本当の美味しさを今に伝えています。