昭和三十年代の製法をそのままに引き継いだ、「なたね油」らしいなたね油
近年、各地で復活しつつある「なたね栽培」。
日本古来の「菜種」からキャノーラ種に品種こそ切り変わりましたが、再び昔ながらの「国産100%」圧搾なたね油が増えつつあります。
そしてそれに呼応するかのように、近隣農家から持ち込まれたなたねを、
天日干し・薪火焙煎・圧搾という昔からの製法で搾り続けてきた小規模の製油所も再起動しました。
育てたなたねを搾油して欲しいと持込む農家と、化学肥料や農薬を使わずになたねを育てて欲しいとお願いする製油所。
もっと美味しいなたね油をつくりたいと、農家と製油所がお互いの要望を出し合いながら、新しい「なたね油」が育ちつつあります。
黄金色が美しいなたね油ですが、全て同じ色合いというわけではありません。
コンバインで刈入れ乾燥機を使って乾燥させたものと、刈入れてから天日で乾燥させたものでは、
金色の濃さも色合いも全く異なるといいます。また品種によっても、搾り取った油の色合いは異なります。
「それぞれ色が違うのがわかりますか?
一番ひだりがキザキノという寒い地方、北海道や東北などの有数の産地で育てられている品種のなたねを
絞ったものです。黄色く輝いているでしょう。」
火入れをしても金色が曇ることのないキザキノの油。
その美しさが一番好きなのだと云いながら、ご自身で植え、房から落ちそうになるまで熟すまで待って収穫したたねから搾った「自家製」の油を見せてくださいました。
「次が乾燥機に入れていないコンバイン狩りのナナシキブの油です。
ナナシキブという品種は、中部圏、愛知県から滋賀県にかけての地域で栽培しやすいエルシン酸のない品種です。
このあたりのほとんどの農家がナナシキブを栽培しているものですから、ここに持ち込まれる原料はほとんどがナナシキブです。
僕個人的にはキザキノを栽培して欲しいですが、収穫が遅れると梅雨の時期と重なってしまって刈り取りが非常に大変なので、
このあたりではナナシキブという品種が主流です。
品種によっても育ちが違うんですよね。
色目の良さからキザキノがよいという精油所は多いようですね。
けれどナナシキブもにおいを嗅いで頂くと分かりますが、甘いです。
揚げた食材がなんとなく甘みが強いような気がします。」
並べてみると、確かに色目の違いがはっきりわかります。
ナナシキブとキザキノ。そして天日干しと機械乾燥。
それ以外にも収穫地や収穫時期によっても微妙な色合いの違いが生まれます。
「これもナナシキブで品種は同じですが色味が深いですよね。
これはコンバインで刈った直後に機械乾燥した種を搾油しました。
同じ品種でも乾燥の仕方でこれだけ色目に差がでるんですよね。
けれど同じ機械乾燥でも、種がこぼれるくらいまで熟したものを収穫すれば油も輝くとは思うんですけれど・・・
太陽に透かすと色目の違いが一層はっきりしますよ。」
コンバインで刈り取って機械で乾燥した種を、わずか1日であっても必ず天日に干すのは、「油職人」の五感が「油の違い」を感じ取っているからです。
論理的な説明も、実証データも無いけれど、「天日に干すと違いが生まれる」と感じてる以上、機械乾燥されたなたねも必ず天日に干すという作業は欠かしません。
「干物もそうだけれども、おてんとうさまの光を当てるか当てないかでは旨みがぜんぜん違いますし、
なたね油の場合は天日に干すか干さないかで色合いが違います。
だから僕は、農家さんが持ってきたなたねを、必ずもう一度自分で天日に干します。」