乾しいたけにも、品種があるとご存知でしたか?
同じ人参を栽培するのにも、甘いものや太いもの、種をまく時期のはやいものや遅いものがあったりしますから、考えれば当たり前のことなのですが。原木栽培であれば種駒(たねごま)としか呼ばないしいたけの「種」に違いがあるとは、「しいたけにも品種があります!」と云われるまで考えもしませんでした。春の早いうちに芽吹くものや、暑さに強いもの、かさが大きく育つもの、味に強いもの、古いほだ木でも安定して育つものなど・・・たくさんの品種があるだけでなく、毎年新しいものが出てきているのだとか。
スーパーの店頭には、年間をとおして原木の生シイタケが並んでいるということは、年間供給できるように種を込める時期をずらしたり、種を組み合わせるのが当たり前なのでしょうが、「生シイタケ」以外の情報が乏しい店頭では、見分けは困難。とはいえ品種が商品名として明記されるのは、ジャガイモやさつまいも、米くらいのものですから、知らなくて当たり前なんでしょう。
生シイタケに品種があれば、もと「生シイタケ」の乾しいたけも品種があって当然。
そんな単純な事実に気が付いたのが、福岡のしいたけ問屋 武久さんにお邪魔したときでした。
「これひだの部分が黄色いでしょう?新しい品種なんですが、食感も味も違うんです。乾しいたけも、濃い出汁がとれるものとか、食感の優れたものとか、食感と味のバランスがよいものとか、いろいろとあるんですよ。」
今は一般家庭では、肉厚な【どんこ】が重用されています。高級品というイメージもあり、食感も良いので、贈答にはもってこい。乾しいたけを使う量もすくない分、一家に一袋あれば十分とされがちなこともあり、だしを取るのも、煮物の具にするのも、全部を【どんこ】ひとつで済ませてしまう家庭が少なくありません。なのですが、煮出してだしをひくという目的には、実はどんこよりも適したしいたけがあります。それはかさのうすいもの。どんことはまったく正反対の形状のものです。【どんこ】は、食べておいしいしいたけ。なかでも、冬の寒い時期に時間をかけて育つ【はるこ】は、更にうま味が増し食感も強く印象に残ります。
産地によっても味わいは全然異なります。私個人的には、食べるなら【熊本産 はるこ】の小~中粒の乾しいたけ。だしをとるなら、【大分県産 香信】でしょうか。なかなか原木まで知る機会はありませんが、種駒を込める原木によってもまた、味が全然ことなります。おなじしいたけでも、生と乾ではうま味も味わいも全然違ったりもしますので、これも不思議です。
欧米では直径15センチ近くあるポルタベロと呼ばれるマッシュルームをバンズに挟んで、「ベジタリアンバーガー」をつくっていたりします。日本でもジャンボマッシュルームならぬ【ジャンボしいたけ】があるようで、あっさりした味はポルタベロにも似ていたり。このジャンボしいたけの乾しいたけは、噛みごたえがあって、乾しいたけ独特の癖も弱く、他の素材との馴染みも良いので、味付けもしやすいです。
ジャンボしいたけは極端な例ですが、ひとくくりにされがちな乾しいたけにも、食感の強いもの、野菜との馴染みがよいもの、そのまま食べたらうま味が強いもの、だしに向いているものと用途ごとの販売ができれば、「どうやって使うかわからない」から使わないひとたちが、ちょっと使ってみようか?に転じるのではとは考えます。
もっとも、これ。乾しいたけを仕入れているひとたちと育てている農家さんの知識と連携、使ってくれる消費者さん、使う側のアイデアと試行錯誤がかみ合わなければ、成立しないんですよね。
保存食としては最適な乾物なので、各家庭に常備して、徹底的に使いこなせれば便利ではあるものの、この5年ほど価格の高騰がおさまらない乾しいたけ。消費の減少による生産者の減少も価格高騰の一因でもあるため、手の届かない高級食材に転じてしまう前に、家庭で使いこなせる便利食材にしてしまいたいなあと、願ってやみません。