最近あまり聞かなくなった表現なのかもしれませんが、自画自賛したり、自分を自慢したりすることを「手前みそ」と云います。自身の身内をほめちぎるときに、「手前みそで恐縮ですが」と前置きしたりもします。
辞書をひくと「手前みそ」の語源は、まさしく味噌。各家庭で味噌を仕込んでいた昔、自分の家の味噌が一番美味しいと自慢する行為から派生した表現なのだそうです。
家庭で仕込んでいた保存食は、味噌だけではないはずです。漬物や梅干しもそのひとつなのに「手前梅干し」といわないのは、語呂がわるいからなのか、それとも味噌ほど各家庭で仕込んではいなかったのか・・・。その辺りはわかりませんが、どれも酸っぱくて同じように感じる梅干しもまた、味噌のように味の違いが生じる保存食です。
使う材料は、塩と青梅。ところによっては、これに赤紫蘇がはいります。塩の分量、梅の大きさ、干し加減などの違いにもよって、大きく変わります。地域性もあり、ざっくりと特徴づけすると「関西=しそ梅・柔らかい、関東=白梅・カリカリ」と聞いた記憶がありますが、もしかしたら違うかも。
作り方の違いもさることながら、おなじ作り方をしても塩ひとつでこれだけ味が変わるのか!と驚いたのが、某展示会で出会いを頂いた梅干し屋さんです。
その場にあるだけで10種類。
国内外問わず、塩の種類(海塩、湖塩など)も問わず、同じ漬け方で塩を変えて漬け込んだ梅干しがざっと一同に会していました。
見ているだけで口の中が酸っぱくなって、生唾が出てくる壮観さです。びっくり。これに加えて、漬け込んだ年数別というのも出しておられました。
さすがに全部は頂けなかったものの、塩によって酸味の感じ方は変わります。酸味が柔らかくなったり、甘みが増したり。用途と材料によって塩を変え、素材の味の違いをひきだしますので、梅干しにしても、味に違いが生まれて当たり前といえば当たり前・・・ではありますが、興味をひかれたのは塩の質。グラム単価あたり高価な塩をつかったからといって、必ずしも「これおいしい!」と感じる梅干しだったかというと、そうではなかったのです。
その時の体調や気候によって、変化しやすいのが味覚ですから、一概に「これが美味しい、お勧め」とは云えないという前提にたっても、おなじ梅・同じ環境で仕込んだ梅干しが、塩の違いひとつでこれだけ味の違いを生み出すのだと知ると、梅干しは何種類かあってもいいなあと思ったり。十年単位で長く長く寝かした梅干しの、まろやかな酸味と塩味も貴重なので、「賞味期限」の制限を超えて保存できる家庭で仕込んだ梅干しは、本当に大事だなあと思ったり。十年単位で寝かせると、柔らかな梅干しとは、まったく異なったものに化けてしまいますが、それでも美味しい!のがとっても不思議です。
とても簡素な材料でつくる昔ながらの梅干しには、伝統食に秘められた知恵と機能が備わっています。味噌と同じく、家庭でつくる保存食のひとつとして、長く口伝されてきただけあるなあと感心します。家庭で塩を分けて何種類も梅干しを漬けるのは、現実的ではないけれど、自分の家の梅干しを軸に、何種類かお気に入りを見つけて常備するのも面白いのではないかと思った次第です。
梅干しを選ぶのに、塩を知る。
梅干しの味の違いを想像するのにも、結構目安になりますよ。