殺虫剤 不使用。
殺菌剤 不使用。
買い物をしていて、こういうラベルを見かけました。
トマトの生産者(供給者?)の独自表示のようですが、有機認証とは関係のないものです。
1970年代初頭 欧米の有機農業実践者が集い、有機生産物に対する世界的な信頼を高めるために国際NGO「IFORM」が動き始めたのが、ここフランスです。だったら有機栽培が盛んな国家なのではと期待も高まりますが、イタリアやドイツの方がはるかに有機認証の普及率が高く、欧州連合の加盟国家の中で「認証」の普及率が低いグループに属するのがフランスです。ですから、オーガニックの生鮮を扱うコーナーに並ぶのはスペインやドイツなど近隣国からの輸入品が大半です。
欧州連合外の国にルーツをもつものの目で見れば、「それでも、EU製でしょう?」と思うのですが、有機認証かどうかよりも、「フランス製」であるかないかに重きを置く消費者は決して少なくはありません。世界という舞台では、平和的な経済協定をベースにした国家連合として振る舞っている欧州連合も、それぞれの国家間に横たわる歴史は決して軽いものではなく、会話の端々、行動の端々に消化しきれない何かが見え隠れします。「平和的な」関係だけを保ってきたわけではない国家間の協定がいつもまでも続くわけはなく、自国領土から生産拠点が海外に移動していく様は歓迎できないとでも云うように、「フランス産」というステッカーを掲げた商品が目につきます。日々の暮らしに欠かせない生鮮食品は、このステッカーが目立つように貼られている様子をみると、消費者の多くが産地を選択基準にしているのだろうと想像できます。
もともとが農業国家のフランス。年に一度パリで開催される国際農業見本市(Salon international de l’agriculture)は、農、林、水産、酪農、畜産業に関わるあらゆるものが揃っています。現役大統領や政府高官がこぞって視察に訪れるこの見本市が、以降の大統領の命運に影響を及ぼすとも云われるのは、この国家の軸が農業であるから。大戦後の深刻な食糧危機を乗り越えるべく、国家を挙げて食糧生産に従事してきた結果、食糧自給率が100%を超え、耕作面積が国家の半分以上を占める一大農業国家になったフランスにとって、「自国で生産する」行為そのものが国家を左右する命題であり、食に関わる分野には特に、メディアも国民も、非常に高い意識をもって注目しています。
栽培面積あたりの減収、耕作面積の拡大、機械化、大量生産と、先進国の多くが辿った道は、フランスも無縁ではありません。しかしながら、高いクオリティを維持し供給するために、利便性や収益に安易に流されない昔ながらの製法にならう生産者も少なくはないのです。食に関する見本市は、パリ国際農業見本市だけではありません。年間をとおして各地では大小さまざまな見本市やフェアが開催されますし、毎週どこの街でも必ずといっていいほど生産者の直売市が開かれています。店先に並ぶのは、作り手の信頼をかけた作品たちです。彼らが「どこにも負けない」と自負する食品には、有機の認証こそありませんが、何年間も毎週同じ場所に店を構え、消費者と直接顔をあわせ、取引を続けていけるだけの「クオリティ」をもっています。彼らがいう「クオリティ」とは、味であり、鮮度であり、品質であり、それを提供する彼らへの信頼。打ったら響く消費者が多いこの国で下手をすると、あっという間に立ち行かなくなることは、作り手もしっかりと認識しています。
大手の量販店を介して販売するのであれば、「認証」という第三者の担保が必要なのでしょうが、お互いが顔をあわせ販売をする場では「作り手」「売り手」そのものが、信頼を担保しています。農業大国でありながら、有機認証取得率が低いのは、恐らく消費者と生産者のお互いの信頼をかけたやり取りの積み重ねの結果が、少なからず影響しているのではないかとも思います。
何百キロの道のりを経て届く、有機認証の生産物を選ぶのか。
車で1時間もかからない場所から届く、朝採りの生産物を選ぶのか。
選択は一様でありませんし、ものによっても変わります。
ただ「認証制度」がもつ歴史的背景を、「認証」が大手流通や国際取引を前提に規定されるものだということを、顔の見えない取引が前提にあることを、知っているのといないのとでは、これからの世界の在り方にも違いが生まれるのではないでしょうか。