歯科の話に入る前に、これは当たり前の話なのですが、機能と形態についてお話ししたいと思います。車はタイヤが4つ付いていることでスイスイ走ることが出来ます。また、飛行機は羽根が付いていることで空を飛ぶことが出来ます。電車は線路の上を車輪が回ることにより高速に走ることが出来ます。もし、車にタイヤがなければ、または四角いタイヤがついていたならスムーズに走ることが出来るでしょうか。飛行機に羽根が無かったら空を飛ぶことが出来るでしょうか。これらのことを踏まえて考えると、機能と形態には完全ではないですが1対1の対応関係があることがわかります。ある機能を持つためには、それに必要な形態があるということであり、また逆も真なりで、ある形態を持てば機能出来る環境の一部が備わると言えるでしょう。
これは歯の形態にも言えることで、前歯と犬歯、臼歯は形態が違います。これはそれぞれ機能が違うことを意味しています。前にも書きましたが、一番前の前歯は果物のような食べ物を、二番目の前歯は野菜や海藻類、三番目の犬歯は肉類などの動物性食品、四番目以降の臼歯は種のようなもの、ひえやあわや米などの穀物を食べるためのもので、どちらかというと前歯は切ったりすることが多く、奥歯はすりつぶす機能を多く持つわけです。
また身体でも、足の指と手の指を比較しますと、当然手の指の方が物を掴むのに良い形態をしています。歯も全体の形態(歯の集合体)、即ち歯並びをみてみます。顎の機能を一番よく働かせるためには、顎を前にも右にも左にも自由自在に動かせる形態が必要で、その形態は理想的には一つしかありません。この一つには「縦」」「横」「高さ」の三次元的要素がとても深く関係してきます。一つの歯が異なる位置に生えることにより全体としての機能は半減してしまうのです。さらにその歯が顎の位置をずらすことにより、身体の他のシステムに障害を与えてしまうのです。歯並びは大切です。
歯が悪い位置に生えていることで、実は気が付かないうちに障害を持ってしまうのですが、正しい状態に治療しますと、こんなに身体は楽だったのかとよく言われます。成長発育のなかで皆さん、現状が当たり前としか思わないので気が付くことが無いのです。どこかの具合が悪くなり病気になるかしないと気が付くきっかけをもらえないのです。では何故歯並びが悪くなるのでしょうか。これには色々な環境や問題があります。
具体的には矯正の項目で書きますが、生活環境、食事、姿勢、遺伝的な要素等が挙げられます。
先日抗加齢医学会で101歳を迎える日野原重明先生の特別講演を拝聴しました。ご存知の様に現役の医師です。先生は40分間立ったままご講演されていました。先生は自らを含め何十年もかけて人が老化していく様を研究し、機能が出来なくなるのは形態が変わるからだとおっしゃっていました。特に目が小さくなることと、平衡感覚が無くなることの二つを挙げていらっしゃいました。毎朝目を手を使い無理矢理大きく開けるそうです。また、目をつぶり片足で立つ時間で平衡感覚をみているそうです。
機能と形態は切っても切れない関係です。形から入ることもとても大切なのです。昔、子供の頃、姿勢を正しなさいという言葉が、色々なところで言われていたのはそのためです。日本にあった大切な文化のなかには、正座することで姿勢を正すチャンスがあったのですが、最近は椅子生活になり、便利さを追求することにより何か大切な物が一つずつ失われていくようでなりません。今こそ日本の良さを保持してきた昔に返ることができるラストチャンスなのではと思っています。
田中 利尚
田中 利尚氏 歯科医師・整体師 日本抗加齢医学界専門医 国際統合医学界認定医 「咬合(かみあわせ)を制する者は歯科をも制す」という、歯科医学の見落とされている最も大切な力学的調和という根本理論に触れ、かみあわせを追求。しかし身体が変位していると良いかみ合わせを構築できないところに西洋医学の限界を感じ統合医療を目指し東洋医学(整体)を勉強。 顎が痛い、お口が開かない、首肩の凝り、腰痛、うつ病までを含む顎関節症の治療にも取り組んでいる。 「健康は歯から」を確信している。 |