仕事や家事、育児、介護に一所懸命取り組んでいると、疲れを感じたり、ため息がこぼれたりすることがあります。それでも「まだ大丈夫、がんばらなきゃ」と自分に言い聞かせ続けていると、気づかぬ間に気分が落ち込み、体調を崩してしまいます。そんな患者さんを、たくさん目にしています。自分を後回しにして、だれかのために力を尽くす姿は、本当に尊いものですが、限界に近づいている方が多いのも事実です。
私たちは普段「正しいかどうか」を基準に物事を判断し、行動を選択しています。正しさを大切にすること自体が悪いわけではありません。しかし正しさを前提にすると、行き着く先は「ちゃんとしなきゃ」「もっとがんばらなきゃ」という結論になりがちです。また、正しさの裏側には、間違いや失敗という概念が生まれます。
「間違えないように、ちゃんとがんばらないと」という言葉にあなたの身体はどう反応するでしょう? 無意識に呼吸が浅くなり、身体は緊張しやすくなっているかもしれません。この緊張が続くと、自律神経のバランスが乱れます。動悸、汗の異常、めまい、頭痛、肩こり、手足の冷えやしびれ、痛み、倦怠感……それらは、身体からの大切なサインです。
最近患者さんにお勧めしているのは「自分への思いやりを持ってみよう」とただ思ってみることです。なにかを変えようとしたり、すぐに行動する必要はありません。「自分にも優しくしていい」と、心のなかでつぶやいてみてください。最初は小さな変化でも、続けていくうちに少しずつ心が癒やされていきます。
長い間、だれかのためにがんばり続けてきた人にとって、そのがんばりを急に緩めるのは、勇気がいることかもしれません。だから、こう自問してみてください。「自分にも、だれかにも、同時に思いやりを向けることはできないだろうか?」
普段のあなたは、気づかないうちに[自分:他人=0:10]に近い配分で、エネルギーを使い切ってしまっているかもしれません。自分への思いやりを持つというのは、そのエネルギーをすべて他人のために使い切らない、という選択です。理想は[5:5]ですが、いきなりそこを目指す必要はありません。まずは[自分:他人=1:9]から始めてみましょう。
がんばるときに全力を出し切らず、ほんの少しだけ自分のために余力を残してみましょう。好きな音楽を流しながら、おやつをつまみながら、大好きなコーヒーを飲みながら、だれかのために動いてみましょう。それだけでも身体と心は「大切にされている」と感じるはずです。
自分と自分以外の人の両方に思いやりを向けるということは、自分と世界の両方を愛するということです。そこで、思いついた言葉を紹介します。「(自分を含む)この世界を愛しています。(自分を含む)この世界からの祝福を(すべて)受け取ります」です。ここでの「世界からの祝福」とは、特別な出来事だけではありません。水や食べ物、住む場所があるといった、安全な国に暮らしているという、すでに与えられている恵みへの気づきです。そして同時に、自分にとって不都合に思える出来事さえも、もっと大きな視点から見れば、すべてが「祝福」なのかもしれない、という捉え方です。善か悪か、正しいか間違っているか、その枠を超えて自分に起こる出来事をまるごと受け取る覚悟をこの言葉に込めています。
眠れない夜や心がざわつくとき、ゆっくり呼吸しながら繰り返し唱えてみてください。最初は「(自分を含む)」の部分も含めて唱えてみましょう。言葉が馴染んできたら、省略しても構いません。
あなたは今日まで一所懸命に歩んできました。これからは、その歩みのなかに、あなた自身への優しさを混ぜてあげてください。
