私たちの体は、いつも驚くほど精密に働いてくれています。「それなら、なぜ病気になることがあるのだろう?」と思いますよね。その答えのひとつが、自律神経の働きにあります。
自律神経は、私たちが意識しなくても体の働きを自動で調整してくれる仕組みです。心臓の鼓動や呼吸、体温、消化、汗などをコントロールし、体をちょうどよい状態に保ち続けています。自律神経には大きく分けて「交感神経」と「副交感神経」があります。交感神経は車のアクセルのように体を活動的にし、副交感神経はブレーキのように体を休ませ回復させます。状況に応じてどちらかが優位に働くことで、私たちは日々の生活を送ることができるのです。
たとえば緊張しているときには交感神経が優位になります。心臓は速く強く打ち、呼吸は浅く速くなり、体に酸素とエネルギーを素早く送る準備をします。瞳は大きく開いて周囲に注意が向き、筋肉には血液が多く流れる一方で手足は冷えやすくなります。さらに肝臓から糖が放出されて瞬発的な力が出やすくなり、胃腸の動きは一時的に抑えられるので食欲が落ちたり胃が重く感じたりします。これは、体が「戦うか逃げるか」という状況に備えているからです。
反対にリラックスしているときには副交感神経が優位になります。心臓の鼓動はゆっくり落ち着き、呼吸も深くゆるやかになります。血流は内臓や皮膚に多く回り、体が温かく感じられます。消化器は活発に働き出し、唾液や胃液が増えて、腸の動きもスムーズになります。そのため食べ物をしっかり消化吸収でき、体は休息・修復モードに入ります。
私たちが体調が悪いと感じるのは、交感神経の緊張がずっと継続しているときです。心臓や肺の血流は過剰になり、その他の部位は血流が不足します。血流は過剰でも不足しても、その状態が継続すると体にとっては負担が増えます。血流の過剰が続くと血管が固くなり高血圧になったり、血管がもろくなり脳血管障害や心筋梗塞のリスクが高まります。血流が不足すると免疫力が低下し、感染しやすい状態になります。これは不都合に思える反応ですが、体はただ「心の緊張に忠実に応えている」だけです。つまり、体はいつでも精一杯、完璧に働いているのです。
自律神経は、自分の意思に関係なく自律的・自動的(オートマティック)に反応します。自我のコントロールが効かない体の反応です。自律神経を意志でコントロールすることはできませんが、間接的に整えることはできます。深くゆっくり呼吸する、好きなことをイメージする。それだけでも交感神経の緊張は和らぎます。日々のなかで「心が緊張していないかな」と気づいてあげることが、病気を遠ざける第一歩になります。
「体は完璧に働いている」という視点を広げてみましょう。天体の自転や公転などの運行は完璧に起きているし、天気も自然の法則に完璧に従って変化しています。植物も動物もその環境に適応して、完璧な生態系を生きています。唯一、人間の自我だけが「(自我の)思い通りにしたい」と求め、うまくいかないことに苦しむのです。
自分の体を意志の力で「よくなれ」と言っても変化は起きませんが「体も環境もすべて完璧に働いてくれているのだなぁ、自我ではどうしようもないのだなぁ」という「手放し」の心境になったとき、心も体も深くリラックスし、自然との調和が戻ってきます。「すべては完璧に働いている」と心のなかで繰り返してみてください。その言葉が、体と心をちょうどよい状態へ導いてくれます。もしこの言葉に抵抗を感じるときは、そう感じる自分を認めてあげましょう。「そうだよね、抵抗を感じるよね、わかるよ」って。ネガティブを感じる自分も完璧な流れのなかにいます。