いつも患者さんに「好きなことをいっぱいやりましょう。そのために、やらなくちゃいけないと思ってやっていることをできるだけ減らしましょう」とお伝えしています。
やらなくちゃいけないことは、エネルギーを奪います。好きなことはエネルギーを増やします。エネルギーは治癒力でもあり、生命力でもあると思っています。なんの遠慮もなく好きなことができると、病気にもなりにくいし、充実した人生が送れるようになります。しかし、ご存じの通り好きなことだけできる人は、ほとんどいません。診察を受けに来られる方の多くは、自分の好きなことがよくわからないとおっしゃいます。「昔は好きなことができていた」という人もいますが、多くの場合「好きなことってなに?」という反応です。
「好き」を見つけるための練習
今からでも好きなことを見つけましょう、という話になりますが、何十年もやりたいことをせず、やらなくちゃいけないことばかりしていると、自分の好き・嫌いのセンサーが鈍くなっています。まず今日はなにを食べたいですか? 食べたほうが良いものではなく、「今」自分の口が欲しているものを探しましょう。どんな匂いが好きですか? アロマの香りを聞き比べて(香道では聞香と表現するそうです)、どれが「今」一番いい香りだと感じますか? どんな音や音楽が好きですか? 「今」聴きたい音や曲を検索して聴いてみましょう。どんな景色が好きですか? 自分の寝室の壁いっぱいに大きな額を飾るとしたら、どんな写真や絵画を選ぶでしょう。その映像を検索して見てみましょう。どんな肌触りの寝間着や寝具やぬいぐるみが好きですか? ゆっくり・ぐっすり眠るために、心地よい肌触りのものを選びましょう。ちょっと高くても、人生の3分の1から4分の1はそれらのものに触れて過ごしています。大切な自分のために少しの贅沢を許してあげましょう。そういうことができるようになってきたら、自分の好きなことも見つかるようになるでしょう。
罪悪感の正体
もう一つの問題は、やらなくちゃいけないことをやめたり、減らしたりするときに「罪悪感」を持ってしまうことです。その罪悪感のために、好きなことをすることに、ブレーキを掛けてしまっています。罪悪感の正体は、親の価値観です。例えば、お母さんの機嫌が良くなることはやってもいいこと、お母さんの機嫌が悪くなることはやってはいけないこと。お母さんの言うことをきく子は良い子、お母さんの言うことをきかない子は悪い子。お母さんに迷惑をかけないのがいい人、お母さんを困らせるのは悪い人。お母さんが褒めることが素晴らしいこと、お母さんが貶すことがだめなこと。このように、親の価値観が絶対的な基準となってしまい、私たちの心に深く根付いてしまいます。
子どもは、生まれてから反抗期までの間に、こういった刷り込みを受けて育ちます。やらなくちゃいけないと思っていることをやめるとき、お母さんに嫌われるかもしれない・愛されないかもしれない、という恐怖が蘇るために一歩を踏み出すことができなくなってしまいます。やりたいことを見つけ、罪悪感を感じながらも「エイッ!」とやりたいことをやってみましょう。喜びと罪悪感が入り乱れて、心はざわざわするかもしれません。でもその葛藤が、親の価値観を捨てて、自分の生き方を選択するという力を与えてくれます。「エイッ!」と一歩を踏み出す勇気をくれる魔法の言葉が「人(お母さん)に迷惑をかけてもいい!」「ダメな私のままでもいい!」です。繰り返し唱えていると、いつか腑に落ちるときがやってきます。生命力にあふれ、充実した人生が待っています。