東ティモールという国をご存じでしょうか。地理的にはインドネシアのバリ島の東に位置し、面積は長野県ほど、人口は約140万人という小さな国です。1975年にポルトガルの植民地から独立できたと思ったその瞬間にインドネシアの侵攻を受け、その後24年間にわたり戦闘や飢餓、病気などで人口の約三分の一を失うほどの深刻な戦争状態にありました。1999年に戦争は終結し、2002年に独立を果たしたアジアで最も新しい国です。独立を確実なものにするため国連が平和維持部隊を派遣し、それ以降、日本の政府や非政府組織の双方が、東ティモールの平和と経済的自立を支援してきました。
日本のNGOが特に力を入れてきたのが、東ティモール産のコーヒーを世界レベルの品質に引き上げる取り組みです。複数の団体が長年にわたって栽培や加工技術を支援し、「高品質なアジアのコーヒー」といえば東ティモール産と称されるほどの評価を確立しました。現在ではスペシャルティコーヒーとしてだけでなく、オーガニック認証やフェアトレード認証も取得しており、欧州をはじめ世界中から高い評価を受けています。ちなみに、弊社プレマルシェの飲食店で提供しているコーヒーは、この東ティモール産の豆をベースに、フィリピン産のフェアトレード・オーガニックコーヒーを独自にブレンドしたものです。ご来店の際にはぜひご賞味ください。
カカオの新天地を目指して
コーヒーが栽培できるエリアは「コーヒーベルト」と呼ばれ、赤道から緯度25度以内の範囲です。同様にカカオが栽培できる「カカオベルト」は赤道から緯度20度以内とされ、両者は似た地域で育ちます。コーヒーは標高の高い場所を、カカオはより低地で湿度の高い環境を好みます。いずれにしても東ティモールにはその両条件を満たす土地がありながら、カカオの栽培は、ほとんどおこなわれていません。
プレマ株式会社では、カカオから丁寧にチョコレートを作る「プレマルシェ・カカオレート®ラボ」を運営しています。東ティモール産のコーヒーやハーブティーを扱ってきたご縁から、現地で国際協力の一環としてコーヒーの栽培指導と流通支援をおこなってこられた認定特定非営利活動法人パルシック様よりお声がけをいただきました。その内容は、東ティモールでわずかに採れるカカオ豆がチョコレート製造に適する品質かどうか、そして品質を高めるための方法について、チョコレート専門家としての知見を共有してほしいというものでした。
現在、かつて他団体によって配布されたカカオの苗が森のなかで育っており、いわゆるアグロフォレストリー(農業と林業が共生し、多様な作物が共存する生態的農法)の形をとっています。しかし、地元の人々はカカオの価値やチョコレートの風味をまだ十分に知らず、それが本格的な栽培に至らない一因でした。そこで私たちは現地を訪問し、商品価値を説明するとともに、東ティモール産カカオから作った複数のチョコレートを試食してもらいました。皆さんの反応は非常に熱心で、強い共感を得ることができました。また、候補地に情熱的なパートナーがいることも確認でき、今後、ほぼゼロから東ティモールのカカオ栽培プロジェクトをパルシック様とともに推進していくことになりました。
平和の礎をともに築く
現在、パレスチナでは人類史上例を見ないほどの惨禍が続き、地域は荒廃を極めています。また、ウクライナでの戦闘も終わりが見通せません。一足先に独立した東ティモールには、まだ多くの課題が残っていますが、国民が自らの手で勝ち取った平和と、未来を担う若い世代が確かに存在しています。
私たちがチョコレート作りを志した背景には、こうした国々が自立へ向けて歩む道のりに、微力ながら寄与したいという思いがありました。カカオという作物を通じて現地の生活に新たな可能性が芽生え、平和の基盤が少しでも強固なものとなるのなら、これほど嬉しいことはありません。
世界では排外主義が広がり、助け合うよりも憎しみ合うことが常態化しつつあります。だからこそ、この小さな取り組みが、日本人が本来持っている「和の心」を呼び覚まし、世界の平和にそっと光を灯すことにつながるよう、祈るような気持ちで取り組んでいます。
(上)ナタルボラ農業技術学校の皆さんと
(下)「森」から収穫したカカオ
