私はこの15年ほど、たまに酵素風呂に通っています。酵素風呂とは、米ぬかや桧のおが屑などを酵素で発酵させ、外部から熱を加えることなく自然発熱させ、その中に身体を埋めて芯から温めるものです。自然療法をされている方でしたら、砂の中に埋まって発汗や解毒を促す「砂浴」をご存じの方も多いと思いますが、それと似た行為で、体温を高めながらデトックスを目指すものです。私の場合、日本各地で異なる酵素浴を体験し、お客様に喜んでいただけるうえに自分のコンディショニングにも非常に良いので、自社で経営してみようかと調査したこともありました。しかし、酵素は生き物ですので日々のお世話が欠かせず、長期休暇も取りづらくなります。また、人を埋められるほどの米ぬかやおが屑を運んだり、混ぜたり、手で穴を掘って埋めたりする重労働を続けてくれるスタッフを確保できる見込みもなく、結局経営はせず、今は客として通い続けています。とくにこの3年ほどは脊椎の調子が良くない日も多かったために、京都で長年続けておられる酵素風呂に定期的に伺い、身体の調子を整えています。
米ぬかが足りない
私が通っている酵素風呂では、米ぬか・桧・摘んだ薬草(主にヨモギ)を混ぜて発酵させるハイブリッド方式で、非常に効果的な酵素浴ができます。いつもお店の外には大量の米袋が積まれており、その中に新しい米ぬかやおが屑が入っています。ところが年末が近い数週間、あれほど積み上がっていた紙袋がほとんどなく、「ちょうど入荷前のタイミングなのだろう」程度に思っていました。ところが、いつものように浴槽に埋めてもらっている最中に、「中川さん、今年は米ぬかが本当に足りなくて困っています。どこか譲ってくれそうなところをご存じないですか?」と尋ねられました。さらに聞けば、年末はぬか漬け用の需要が高まるため、毎年米ぬかが減る時期ではあるものの、「ここまでどこにもない状況」は何十年の歴史のなかで初めてだと言われるのです。一昨年からの日本の米不足の影響があり、米の流通でなにが起きているのか政府でも把握しきれていない状態が続いています。ニュースや、弊社での米の仕入れ状況から推察はしていましたが、「米ぬかが圧倒的に足りない」というのは、もっと深刻な事態が進行している可能性があります。
危機的な悪循環
現在の米の流通状況を考察すると、令和7年度産の新米が出揃ってからも銘柄米の価格が高止まりしていること、また安値で放出された備蓄米の家庭在庫が消費されずまだキッチンに眠っていることなどから、新米の売れ行きが悪いという報道があります。その影響で、全国の米倉庫が在庫で溢れ、保管するだけでも苦労するという急激な逆ブレ現象が起きています。弊社で扱う無農薬・特別栽培のような生産者指定の米はすぐ売り切れ、次の新米までは供給が続かないだろうという状況である一方、一般市場では「米余り」が起きているようなのです。実際には、「米が足りない」と言われ続け、政府が備蓄米を無秩序に放出し、民間の小売店はより安価で安定した輸入米へ切り替え、ネット上では「安い輸入小麦のパンや麺を食べよう」ムーブメントが加速。こうした複合要因によって、国産米の需要が急減したと推察されます。その結果、国産米を精米してきた地域の仲卸業者は精米量を大幅に減らし、副産物である米ぬかがまったく出てこないというドミノ倒しが発生しています。
これは、日本人の主食であり、本来守り抜くべき米づくりをさらに衰退させかねない危機的状況です。しかし、布石は以前からありました。弊社の飲食店で使用する油の多くは国産の米油ですが、5年ほど前から米油の製造に大量に必要な米ぬかが不足し、米油の欠品が繰り返されていました。米油が作れないほど米ぬかが不足している状況は、主食の需給バランスが大きく崩れ始めていた兆候(前震)だったのです。その後、本震とも呼べる「米騒動」が起き、今度は日本人が日本の米をさらに食べなくなる流れが加速してしまいました。
有機や無農薬以前に、国民が食べる食糧を国内で充分に生産できない状況で、外国に強気な姿勢を示してもだれも幸せになりません。本来、国の要は農政であり、威勢の良いことを言うのは、食糧の自給が十分確保できてからで良いのです。排外主義を煽る前に、まず自分たちの構造的な問題と向き合う一年にしたいものです。

