2025年のクリスマス、日本の無痛分娩普及率が16・2%に達したとのニュースが流れました。出産数は減り続けているのに6年連続の上昇で、2025年10月から無痛分娩に最大10万円が助成される東京都の普及率がトップの35・8%です。一方で29県が10%未満なんだとか。
無痛(和痛)分娩とは、陣痛が5分おきくらいに本格化し、子宮口が4~5cmくらい開いてから硬膜外麻酔などで痛みを和らげる、欧米ではごく一般的な出産スタイルです。しかし、日本では、地域差や施設差が大きく「受けたくても受けられなかった」という声も少なくありません。歯科でも外科でも麻酔をできるだけ利用するのに、出産だけ利用しない理由はありません。無痛分娩を選びたい女性が選べるのは、当然の権利です。
しかし、無痛分娩は魔法の「痛みゼロ」ではありません。無痛分娩の経験者は、「あれより痛くなるなんてよく耐えられたね」と自然分娩の私を褒めてくれます。一方で、無痛分娩と助産院での完全自然分娩の両方を経験した友人は、無痛分娩のほうが痛かったと言います。私自身、初産の陣痛が不規則な時期が一番つらかったので、それを経験していても、脳内麻薬が分泌される過程を経ない無痛分娩のほうが、結果的に痛みと恐怖の記憶が残る気がします。また、麻酔を用いる医療管理は専門性が求められます。安全のために医師やスタッフを24時間対応にすることが難しいという体制の問題もあり、無痛分娩と陣痛促進がセットでおこなわれることも多いようです。完全自然分娩で2回産んだ私ですら、第三子のときに陣痛促進されたお産は、今も「もう怖くて産めない」と思うほどの恐怖でした。自然な陣痛なら分泌されるはずの脳内麻薬が追いつかないまま、あの強烈さだけを味わうのだとしたら、自然分娩なんてできないと思うでしょう。
「痛みの価値」への疑問と選択
「お腹を痛めて産む」ことに価値を見いだす考え方は根強いとされます。でも女性の多くは、通過儀礼だと思っていない気がします。むしろ、一部の男性のファンタジーなのかもなぁと……。
日本では、英米とは対照的に、女性から無痛分娩を求める運動が起こらず、ウーマンリブの女性たちは自然分娩を求める運動を広げました。公害やサリドマイドなどの薬害も有名ですが、70年代後半には美白化粧品を原因とする黒皮膚病の薬害訴訟、同時期の「粉石鹸運動」などもあります。自然分娩が「前向きな選択」として選ばれ、化学薬品の胎児への影響が不安だと広く認識された結果、ウーマンリブの文脈を超え、一般の女性にも受け入れられたのでしょう。
医療の介在を最小限にとどめる分娩は、日本の助産師が取り組んできた「自然なお産」そのものであり、助産師も積極的にブームを後押ししました。私が産んだ助産院は、時代性を感じさせる「フリースタイル」出産の先駆けで、フリースタイルでのお産は前向きで、楽しかったです。
一方、無痛分娩が普及していた欧米では70年代後半、「ラマーズ法」に代表される、医療介入の少ないお産への回帰が起こりました。89年に米国の催眠療法士が確立し、英キャサリン妃の出産で一躍有名になった「ヒプノバース」。これで産んだ人たちはリラックスして「良いお産だった」と話し、とても楽しそうです。そういう痛みの取り方もあるんです。なにより大切なのは、自分の体と向き合い、納得できる選択をすること。安心して、納得して、出産を迎えてください。
