「産む」と評価が下がる?
昨年、女流六冠のトップ棋士が、妊娠によるタイトル戦の延期を求めましたが応じられませんでした。これを機に、出産によって対局を欠場すると「不戦敗」になる現行制度の見直しを訴えました。それに対し、今年の1月中旬に日本将棋連盟が、女流棋士が妊娠をためらわない制度を検討する委員会を発足したそうです。妊娠・出産により、結果として「負け」が記録されて、歴史にずっと残るなんて。トップ棋士が現状の変革を訴えるのは、みんなで応援すべき行動です。
でもこれは、将棋界だけの話ではありません。アスリートの世界でも、妊娠・出産は長く「キャリアの中断」とみなされてきました。
テニスでは、世界ランキング1位の選手が産休明けに451位まで急落したことが問題視され、制度が大きく変わりました。出産を理由にランキングが下がると、シードにも影響し、復帰が難しくなる現実を背景に「競技と出産は両立できる」というメッセージを制度で示したといわれています。昨年には、女子テニス協会(WTA)は、卵子凍結など将来の妊娠に備える治療費を支援する制度を発表し、さらに前に進んでいます。
女子プロができた日本のサッカー界でも、出産後の契約問題や収入の減少が課題になりました。妊娠をきっかけに辞める例も、他の職種同様ありました。産後も現役を続けることを選んだ選手たちが発信を始めてから約5年。現役ママ選手が先陣をきるときの発言には、頭が下がりました。
2020年春、フランスのハンドボールクラブで、血液検査の際に、事前に通知もなく、自動的に妊娠検査がおこなわれていたことが明らかになり問題になりました。その後、代表選手が出産後に復帰するまでの支援体制の未整備も議論になり、2021年には給与が全額支払われる1年間の産休制度を盛り込んだ、集団協定が締結されたそうです。全額はすばらしい!
男性選手が親になることはキャリアの傷になりにくいのに、女性だけが競技から「離脱する存在」として扱われる。その構造が、可視化され始めています。
「自己責任」にしないために
妊娠・出産は個人的な出来事に見えて、実は制度の問題でもあります。体が変化するのは個人でも、その影響をどう受け止めるかは社会次第。
「今は競技に集中すべき」「産むなら引退後に」といった空気は、直接言われなくても、女性たちに伝わります。すると、妊娠のタイミングは「自己責任」の領域に押し込められてしまう。
出産が、キャリアの失点になるのでは文字通り未来がありません。ランキングが下がること、契約が更新されないこと、不戦敗が記録されること。これらは自然現象ではなく、制度設計の結果です。
WTAの動きは、「産むことを想定した競技設計」への一歩といえます。将棋界の問題提起も、同じ流れのなかにあります。競技の公平性を守りながら、妊娠・出産を理由に評価が不当に下がらない仕組みをどう作るか。これは働く女性全体の問題で、出産で現場を離れたら、「負け」なのか。復帰のために自分だけが努力すればいいのか。制度が変われば、選択の重さは変わります。仕事を愛しながら、産むことも選べる社会へ。その議論が、いまようやく本格化してきたのだと思います。
