プレマシャンティ開発チーム 横山です。
先だって お客様から本葛パウダーにご意見を頂きました。
原料である葛の根が中国で収穫されていたこと、また九州の某老舗葛粉屋さんの国産本葛に比べ、品質がご期待に沿わず「がっかりした」とのお声でした。
落胆なさった事実は大変残念ですし、「プレマシャンティ」に対して抱いておられた好意的なイメージが損ねてしまった様子で、私も寂しく受け止めています。
ですが、実際のところプレマシャンティでご紹介している子たちは、国産原料に限ってはいません。
それは「国内産原料」に拘泥していると、気軽に使えない高級食材になってしまう場合もあるからです。
その食材のひとつが、「葛粉」です。
プレマシャンティには、葛粉が2種あります。
「国産 本葛粉」は、国内の堀子が近畿・九州の個々の堀場で探した葛の根を買い取り、奈良で精製したもの。
「本葛パウダー」は、中国で収穫された葛の根を、九州の作り手が精製したもの。
どちらも伝統的な水晒しの手法に、力仕事は機械の手を借りて精製する葛粉ですが、産地が違うとこれだけ違うか!と云いたくなるくらい使い勝手も、使い方も異なります。
国産本葛粉は、あくまでも本葛粉。
はるか昔に薬草園を生業として、幕府の認可を受けた方々が、葛を薬としてあつかっていた歴史そのままをお伝えしようと始めたものです。
ですからお手当につかうのであれば、こちらの葛がお勧めです。
また和菓子にするなら断然、国産本葛粉です。
ですが、片栗粉やコーンスターチの代わりに料理や製菓に使うのであれば、「本葛パウダー」がより適しています。
煮立った鍋の中に粉のまま振り入れて使えるでんぷんが普及している今ですから、一旦水に溶く という手間ですら面倒がられます。私が知る限りでは、残念ながら「沸騰しているところに入れてもだまにならない」利便性の高い葛粉はありません。ですが一旦水に溶く手間は必要でも、パウダー状の葛は水との親和性が高く、国産本葛粉よりは凝固が緩やかなので、多少液体が熱くても、急に凝固してだまになる確率が低いです。
敢えて「本葛パウダー」と名付けたのは、本葛粉と名付けられないよなという私たちの判断です。
プレマシャンティには、沢山の日本伝統食材が揃っています。
マクロビオティックを暮らしの指針とし、食が薬であると知るメンバーが「これ!」と直感し使い込んだ子たち、あるいはもう何十年と使ってきた子たちを中心に取り揃えているのですから、当然といえば当然です。
同時に、自分の暮らし方をまわりに伝え始めたときに、食材の価格や親しみにくさが「いいのはわかるけど、でもね…」という声につながって、仲間が増えにくかった経験をしています。
往々にして「今つかっているものにくらべて、高い!」「買っても使いこなせない」と云われてしまいます。
伝統的な食材を、まったく使ったことのない方にも手に取っていただきやすくすること。
そしてご自身で使い比べて、最終的に何を、いつ使うかを、使い分けて頂けるようにすること。
そのために、伝統に沿った製法で・国籍や文化背景問わず食を生業にする方々も手に取りたくなる食材をご紹介すると同時に、極力 伝統的な食材ではあるけれど、より使い勝手が良く・毎日使うのにも手に取りやすい価格でご提供できる食材もご紹介し、それぞれの位置づけを、現行の桜ラベルでは金と銀のラインで示しています。
葛粉の場合は、「国産本葛粉」がお手当にも使っていただける金色のラインであり、「ここぞ」というときに使えるよう常備して頂きたいアイテムです。
対して銀色のラインの「本葛パウダー」は、ご紹介にも書いているように「じゃがいもデンプンや片栗粉、コーンスターチの代わりに、とろみづけ等に」、じゃんじゃんお使い頂きたい料理用のデンプンです。唐揚げなども、この葛パウダーでどうぞ。
本葛パウダーの原料は、確かに中国で収穫した葛根です。
本質的に「でんぷん」の質は土壌によりますから、国産葛粉とは質が「違うもの」が出来上がります。
ですが精製の方法も、処理の仕方も、日本に昔から伝わる手法に沿っていますし、
コーンスターチや片栗粉の代わりには、粒子の細かさや溶けやすさ、食材との馴染みやすさなど、
多岐にわたって国産本葛粉よりも使い勝手は良いものです。
国産本葛粉をご紹介するにあたり、お話を聞きにいったのが10年近く前。
その時にはもうすでに、堀り子と呼ばれる葛根を集める方々の高齢化と人数の激減、気象条件の変化により国内で収穫できる葛の根がどんどん痩せて、小さく、細くなっていると聞きました。
葛の根はもちろん、栽培されているわけではありません。
山の奥深くに分け入り、森の中に自生している葛の根を探し出し、限られた短い期間、葛の根が芽吹きに向けてたっぷり養分を蓄えている間に、肥え太った根だけを選んで掘り起こします。
堀り子の目にかなう肥え太った葛の根になるには、十年単位の時が必要です。
長い年月、ひとの目の届かない森の奥深くに、芽吹き、根を張って育った葛の根だけを探し、桑と鋤を使い、数時間かけて独りで掘り起こしたのちに、担いで山中からおろします。
1回の収穫で得られる葛の根は、おおむね十キロ単位といいます。
山道を延々と担いで戻る労力も、人力で掘り起こす労力もそうですが、堀場を知っているとはいえ、必ず収穫できる確約がないまま独りで延々と山に分け入り、葛の根を探し、担いで戻る堀り子の仕事は、生半可な体力と精神力で、続けられるものではないでしょう。
葛の根は高値で取引される非常に高価な天産物であり、貴重な収入源となるものです。
ですから昔の堀り子たちは、葛の根の収穫場所が他人に知られないよう独りで行動することが多かったのだと云います。
肥え太った葛の根が見つけづらくなり、堀り子も少なくなりつつある今、国内の葛根を使った葛粉が、さらに高価に手に入りづらくなっているのも、納得できます。
ひとりでも多くの方が、日本の伝統食材を再発見くださる機会が増えればと考えておりますし、新しい使い方を思いついてくださればなあとも考えます。
同時に高価になりすぎれば、普段使いの食材には難しいのもわかっています。
大きく変わった自然環境と、働き手の減少という現実に直面してなお、伝統的な食材を求める使い手のすそ野を広げ、つくり手を絶やさないようにするために何ができるかを、様々な角度から考え、行動できるプレマシャンティであり続けたいと願っています。