簡単です。本物のみそは、だしいらずです。
みそ・醤油は「みそ蔵」・「醤油蔵」に生息した酵母が、納豆はわらに生息した納豆菌が、
空気中に住まう様々な酵母菌類と一緒に大豆や米を自然のままに「醸して」生まれる食品です。
それは、冷蔵庫や冷凍庫、レトルト、缶詰といった食品の保存方法がまだ無かった時代に、
先人が知恵をめぐらせた伝統保存食でもあります。
しかし日本の「伝統食」と呼ばれる「発酵・醸造食」も、その実体は大きく様変わりしています。
食品需給バランスが不安定となった戦後の混乱期を境に、「供給」に重点を置いた時代の流れによって、
近代化された「伝統食」が多く流通するようになりました。
より効率よく、より短時間に「量産する」ために、温度管理や攪拌などの機械化・自動化をはじめとして、
原材料にも丸大豆の代わりの脱脂大豆、天然蔵付酵母・わら付納豆菌の代わりの人工培養酵母菌、
そして発酵を補助するための添加物などがつかわれるようになったのです。
その結果、四季の移ろいに任せ長い時間をかけて自然に発酵・醸造していた食品たちは、生産者にとっては「より短時間に・より沢山・より扱いやすく」、
消費者にとっては「より安価に・いつでも・簡単に手に入れられる」食品へと変化しました。
スローフードムーブメントの影響か、最近では「丸大豆使用」の醤油や「長期熟成」のみそ、
無添加の発酵・醸造食品が市場に戻って来ましたが、多くのメーカーは「人工培養酵母菌」を購入しているといわれます。
人間に有用な菌を酵母や種麹などと呼び、それ以外を「細菌」と呼び分けていますが、
本来酵母も種麹も自然界の一員であり生態系の一部です。
自然のままに栽培された農産物であれば、天然菌で自然に発酵・醸造が進みますが、
人為的に手を加えた農産物では同じようには進みません。
みそ蔵・醤油蔵に生息した酵母やわらに生息した納豆菌で発酵・醸造するには、原材料の吟味が不可欠です。
だから選ぶのは、自然界に存在する農業資材だけをつかって育てた米、大豆、麦。そして自然に暮らす酵母や麹。
昔ながらの作り方を引き継ぎ、四季の移ろいのままじっくりと熟成させたみそは、だしが無くても十分美味しいみそ汁に仕上がります。
厳選したそれぞれの素材が醸し出すみそのうま味とコクに、野菜のうま味を混ぜあわせてはじめて生まれる身体の奥底にまで染みこむ調和のとれた味です。
夏場の暑い時期に蔵から採種した麹菌の胞子から種麹をおこし、自然のままに育った天産物を原材料に、四季の移ろいに委ねじっくりと発酵・醸造したおみそ。
日本の伝統を次世代に繋ぐ、「本物」の味わいです。
一杯のおみそ汁が食卓に並ぶ、一見伝統的な日本の朝の風景に、「伝統」は残っていますか?