湿気が多いと、水に還るんですよ。~低温製法 海水塩 馬鉢さん~その1の続き
塩田の塩は、甘みを感じます。それは塩化カルシウムが入っているからです。マグネシウムが入っていると、コクが増します。だから一概に、完全ににがりを抜いたり、塩化カルシウムを取り除くのがいいとは言い切れないんですよね。塩田で釜炊きの塩は、ちょっとパウダー状になりますが、さらさらになるのは塩化カルシウムや硫化カリウムを含んでいるからです。うちの場合は粒があらくて固いんですが、それは、マグネシウムとカリウムが主だからです。釜だきの塩もちょっと工夫をすれば粗塩のようにもできるんだけれど、見た目は似ていても成分は決して一緒ではないです。このあたりには製塩所が沢山ありますけれど、塩カルみたことないっていう製塩所のひとも少なくないですよ。
大体どこの製塩所も、この塩化カルシウムは出てこないです。その理由は100度で炊くからなんですね。塩化カルシウムとカリウムの沸点はほぼ変わりません。だから100度で炊くときも、もちろん表面にぱっと浮いてくるんですけれど、ぐつぐつ、ぐつぐつと煮ていると、取り除く時間的な余地がないんです。取り除かれなかったら(塩化カルシウムは)どうなるんだというと、そのまま塩に入るんですよね。もちろん、100度の時点で硫酸カルシウムと塩化カルシウム、ナトリウムはほとんど同時に結晶化しだすのでうちでも完全に取り除くことはできません。すべての硫酸カルシウムや炭酸カルシウムを取るわけではないです。塩化カルシウムを全部取ると、塩にまろやかさがなくなりますという方もいるんですけど、うちの場合は可能な限り全部とります。残したほうがいいのかどうかは、いろいろな意見がありますけどね。
水槽の温度もそれほど上げず、時間をかけて余分な水分を蒸発させて結晶化していきます。水槽の中に手を浸しても、やはりお風呂よりもまだ少し熱いかなという程度です。この二次・三次工程でかかる日数は、気温や水の状態によっても異なりますが、最低で2日。最終工程ではにがりと塩だけが残りますが、塩を寄せる一歩手前、にがりが得られる前にカリウムが結晶化するため、「低温製法 海水塩」にはマグネシウムではなくカリウムが含まれます。最後に水槽に残った水が、「にがり」です。
このにがりは、無色透明で、水道水と変わらない透明度です。舐めると、塩辛さの中に刺激的な苦味を感じます。海水のようにべたべたせずに、さらっとしています。塩からくて渋みのある「にがり」が、豆腐作りになると逆に甘味を生むのだとは、今にがりを卸している先の豆腐屋さんの談。ほかの業者からもにがりを取り寄せてみたものの、どうしても甘みが再現できないと、最終的に「低温製法 海水塩」の製造時にできたにがりをつかっているのだと教えて頂きました。
この近辺の製塩所の方には、こんな風にはできないといつも言われています。周辺の製塩所でとれるにがりは、茶色っぽく、濁っています。その茶色が鉄成分、酸化鉄や炭酸カルシウムの色だといわれます。でもこれは強酸性なんですよね。塩田方式でもそうですが、昔は(にがりは)ものすごく茶色かったんですよ。鉄釜で煮ますから、酸化鉄なんかの色がついて、塩も茶色がかっていることが多いんですよね。
昔、にがりブームの折に、茶褐色のにがりが問題になって以来、ステンレス層が普及したり、濾過技術が進み、ボトリングして量販されているにがりの多くが透明になったのだそうですが、帰路立ち寄った揚浜・平釜方式の製塩所ではオレンジ色のにがりにを見かけ、驚きました。
能登半島には多数の製塩所が点在しています。特に輪島から能登半島の先端にかけての道筋は、塩街道と呼ばれるほど製塩所が密集しています。
このあたりは産業がないから、市や県が主導して輪島から始まる塩街道にはたくさんの製塩所ができました。先端までいくと煙がね、もくもくとあがってます。今はたくものがたりないから廃材を使って火を確保しているような具合なんですよ。5年くらい前まではこの辺の鉄釜の塩は、ちょっと茶色くてね・・・砂が入っていたり、鉄釜の色だったりいろいろなんだけどもね。それ以前にも、この辺のひとは平釜もって自分で作ってたみたいです。
製塩業に携わる中で馬鉢さん自身、塩について考えることが多いといいます。
硫酸カルシウムや炭酸カルシウムにしても、人体に入ったら間違いなくダメっていうわけではないけれど、水には溶けませんし、身体の中からどうやって排せつするんだ?というのが疑問ですよね。時々、食塩でもいいんじゃないの?と思うときもあるんですけど、ひとのからだってアルカリ性じゃないですか。だから内臓も、アルカリ性になるように整えないとダメなんじゃないのって考えると、酸性の塩はダメだよなと思ったり。塩の取りすぎだっていわれるんですけどね、どんな塩を使うかによっても使う量は変わってくるだろうとも思います。
塩を作るには大きくわけて、海水を天日で濃縮する「天日採塩法」と、塩のもとになる鹹水(かんすい)を精製し、火を加えて結晶化させる「煎熬採塩法」(せんごうさいえんほう)のふたつがあります。日本では伝統的に後者の「煎熬採塩法」で製塩されており、 1) 鹹水の製造方法と2) 結晶化の方法の2点にわけることができます。鹹水の製造方法とは、塩田の方式とも言い換えられます。鹹水とは塩のもとになる塩分濃度の高い塩水、つまり塩のもとです。これを精製する方法は、海水を海岸から離れた場所までくみ上げる「揚浜式」、塩の満ち引きを利用する「入浜式」、枝条架(しじょうか)と呼ばれるすだれのような装置を利用する「流下式」、イオン交換膜をとおし濃縮する「イオン交換膜製塩法」の4種があります。採種された鹹水は、主に平釜式、真空式・加圧式(立釜)、噴霧乾燥などの方法によって、煮詰めて結晶化、つまり煎熬(せんごう)されています。塩の製法は、消費者にわかりやすいよう食用塩公正取引協議会が食用塩の表示ルールを規定し、記載を統一するよう活動していますので、多くの商品には「天日・立釜」や「イオン膜・平釜」などの表示がされています。しかし「低温製法 海水塩」は、先に挙げた規定には当てはまりませんし、食用塩公正取引協議会にも加盟していません。
低温でじっくり結晶化させることで、湿度の高い日に外で空気にさらしたまま置いておくと、溶解して水に戻る。それが「低温製法 海水塩」です。身体の中に入った時にも、同じように溶けて水になるお塩だともいえるでしょう。 粗塩を好む方が増えた結果、市場には粗塩が増え、製法が洗練された結果、塩が白色化しましたが、一度固形になった塩は、分析しない限り何が混ざっているかはわかりません。 海水をそのまま天日乾燥し結晶化させる製塩方法もありますが、塩度の高い環境を好む細菌の心配もあり、天日干しの塩を避けたほうがいいという意見も少なくありません。何を選ぶかは最終的には個人の判断ですが、味だけでなく「体内に入った後の塩の動き」を判断の材料とする選び方もあるのではないかと感じました