大学4年のある日、突然電話がかかってきて、
「今から出産するけど、見に来ない?」
電話の主は長兄・花井陽光の親友のNさんでした。
長兄が東京にいる時、東小金井で「ゴキブリ村」というマクロビオティック系のコミューンを作って一緒に活動していた仲間です。
その頃、井の頭線の浜田山に住んでいて、Nさんは三鷹だったので、一時間もかかりません。
「ほびっと村」で東京芸術大学教授の三木成夫先生にお願いして「胎児の世界」という講演をしていただいたばかりだったし、同じほびっと村で「産婆の学校」というクラスにも出たことがあったので、興味本位で見に行くことにしました。
Nさん宅に着くと、産婆の学校の講師の三森孔子先生と助手のキクさんが取り上げている最中で、頭が見え隠れしているところでした。
まじまじと見てもいいものだろうかと一瞬躊躇しましたが、いやらしさは全くなく、神々しくさえ見えました。
三森先生が、赤ちゃんが出たがっているのを押さえながら、会陰裂傷しないように、少しずつ頭を出していきます。
本当に少しずつ、少しずつ、会陰を伸ばして広げるように頭を出していくのです。
頭が出てしまえば、あとはスルスルッと出てきます。
元気よく産声を上げ、しばらくして臍の緒でつながった胎盤もきれいに出て安産でした。
大仕事を終えた奥さんの上気した満足そうな顔が印象的でした。
この出産立ち合いの経験から、出産は病気ではなく健康な営みなので病院で産まなくてもいいんだという認識になり、後日、花井家の自然分娩につながるのです。
それにしても、芸大の三木先生の研究室でホルマリン漬けの胎児を見せていただいたり、お産に立ち会わせていただいたりと、普通の文科系の学生にはできない貴重な経験をさせていただきました。