風鈴の音と浴衣、氷の上に盛り付けたそうめん。
流しそうめんもさることながら、夏になると繰り返し流れるイメージで、 夏だけの食べ物という概念が固着している様子です。
実際 気温が30度を超えると消費が伸びるというのも、業界では常識。
とはいえ気温が30度越えの室内で、鍋いっぱいに湯を沸かす・・・考えただけでも 暑くて汗が噴き出ます。
実際のところそうめんをおいしいく頂けるのは、実は夏以外の季節、 特に肌に冷たさを感じる時期ではないかと考えています。
なぜって、夏場のそうめんは噛まないというひとたちが多いのです。
そ小麦の香りがというけれど、一気にすすって初めて感じるのが香り、 かみしめてわかるのが味わいです。
茹で上がったそうめんを、カツオや昆布でひいた薄口仕立ての熱々のだしと ともに頂くと、つゆの味わいと小麦の清涼感と甘みがお互いをひきたてて うどんとは全く違った麺の楽しみ方を教えてくれます。
また千切りにしたキャベツやニンジン、もやしやニラなどをごま油でさっと炒め、 ゆでたそうめんを加えて絡めたあとに、醤油を数滴落としたら、 野菜もたっぷり、香りも食感も豊かな炒りそうめんが出来上がります。
お好みで卵を加えたり、ネギや玉ねぎを加えたりと、具も自由。
疲れた時には、温かいつゆに浮かべたそうめん。
帰りが遅くなった日や、お夜食に、調理時間もぐんと短く、 うどんよりも軽い食感のそうめんは、強い味方になってくれます。風邪をひいたらおかゆがよいというけれど、 私はお米よりもそうめんを選びます。
ひりひりと痛む喉、重くもたれる胃には、 お米は意外とずっしりとのしかかるものです。
鎌倉時代が起源といわれるそうめん。
日本各地にたくさんの産地があるなかで、プレマシャンティの有機手延べそうめんは、 全国三本指に入る生産高を誇る長崎県島原地方で、手延べで製造されています。
つくり手は「手延べ陣川」さん。
現代の名工と呼ばれる陣川利男さんが率いる職人の集団が生み出している、おいしさの極みです。
有機栽培認証をうけた小麦粉をつかい、極寒の季節に早朝から仕込みを始めるそうめんは、 のど越しもさることながら、噛んでこそうまみを感じる「風味」とめんのコシが生きた数少ないそうめんのひとつです。
撚りながら延ばす二十三段仕込み、定温貯蔵庫でじっくり乾燥。
その日の天候にあわせて仕込みを調整し、小麦と水と塩だけで作り上げる味わいは、 材料がすくないからこそ、作る場所、つくるひとたちによって大きく変わります。
食文化は、変わりつつあります。
伝統的な日本食とは?と問いたくなるほど、世代によって「家庭の味」も変化し、 台所の在り方すら変遷しています。
冷凍うどんの質が向上するにしたがって、大量の湯を沸かす必要がある乾麺は、 うどんもそばもそうめんも、麺種を問わずゆっくりと需要が下がっているのが現実です。
「あって当たり前」と思っているものも、食されなければなくなります。
日本の国内での価値が消えつつあるものが、日本国外から絶賛され、 その技術を継承したい、自国でも生産したいと要望があるもののひとつが 「手延べ」と乾麺の技術。
日本にしかない味わいを、どうぞお楽しみください。