プレマシャンティのお母さんを自称している横山は、麺が好きです。1ヶ月、全く米を食べない暮らしでも平気なのに、麺のない生活は耐えられません。そばでもうどんでも、そうめんでも、とにかくつるっと食べられるものが大好きで、国内外問わず、麺料理をみると「まず食べる」が脊髄反射のように染みついています。米粉でも、小麦粉でも、そば粉でも、セモリナ粉でも、とにかく麺の形態をしているものは、原料がなんだって試したくなるのです。
自分でももちろん頻繁に麺を使って料理をします。作りたてが一番といいますが、麺料理も例に違わず、うどんでも、そばでも、パスタでも、粉から打ち上げてその場で茹でると、
もちもちとした食感の良さも口内に広がる風味も、また格別なのです。とくにパスタの生は、乾麺とは全く違う食感と風合いに仕上がって、「違う食べ物なのでは!」と驚くほどの違いを感じるものの、だからといって毎回、麺から作っているわけにもいかず、日々は乾麺をつかっていました。多くの場合、乾麺でもある程度は美味しく頂けますし、不満ではありません。けれど、どうしても納得できる仕上がりにならないのが、「パスタ」。
こればかりは、外で食べるのが一番美味しい!ソースを工夫したり、組み合わせを工夫したりと、満足のいく仕上がりになるようにと努力を重ねても、どこか違うのです。なにが違うのか・・・。思い至ったのは、ゆで具合。
パスタの一番のネックは「アルデンテ」、芯が少し残った状態のゆであがりで食べないと、美味しさが半減してしまいます。けれどもアルデンテで食べ始めるにはアルデンテの少し手前であげてソースに絡めない限り、食べ始めでもう伸びた状態になります。なぜなら、パスタは湯からあげてもまだじわじわと調理されているままだから、なんですね。
うどんやそば、そうめんは、ゆであげると必ず氷水(もしくは冷水)にさらします。この時点で、茹でて柔らかくなりつつある状態から、一気に冷やされて締まります。これに対して、パスタはほとんどの場合、水にさらさずに、そのまま温かいソースと合わせます(冷製パスタは別です)。つまり、茹でているお湯からはあげても、ソースの中でじわじわと茹で続けられるのと同じとも考えられるのです。
乾燥パスタを食べ頃の茹で具合に仕上げるには、実はとっても面倒でタイミングをはかるのにも、非常に繊細な感覚と慣れが必要でした。
生パスタは、保存期間が大変短い上に、生鮮食品扱いで冷蔵保存。原則、食べたい日に買いに行くしかありません。我が儘とは分かっていても、食べたい時にパスタを食べたい。それも乾麺のようにある程度は保存のきくものがほしいと探していたところ、「半生パスタ」との出逢いを頂きました。
乾麺よりもゆで時間が短く、弾力の強い独特の食感で、生パスタのような旨味すらある。
もっとも顕著な生パスタとの違いは、フィトチーネです。
なんと、卵を使っていません。
きしめんのような姿をした平べったいパスタ、フィトチーネは、とろみの強いクリームのようなソースとの相性も非常に良く、味が濃いソースにも負けない麺の風味が楽しめるパスタのひとつです。乾麺をつくるには卵は使いませんが、どうしてか市販の生麺には必ず入っていますし、手作りパスタのレシピでも必ず材料のひとつにはいっています。もちろん、卵を使わなくても「フィトチーネ」の形状にはなるのでしょうけれど。。。生が一番美味しいと知っているのに、生では「卵なし」はありえないのがこのイタリア版きしめん「フィトチーネ」でした。だからこれらの半生パスタのなかで、一番試して頂きたいのがフィトチーネです。卵がないと弾力が半減するといわれたこともあるけれど、そんなことありません。
もちもちとした粘りのある食感と噛みごたえは、卵入りの生パスタと遜色しませんし、乾燥パスタには決してないものです。ゆで加減や茹でる技術とは、まったく次元の違う話なのです。
リングィーネや生パスタも、乾麺とは違うもちもち感が魅力です。
コクのあるソースにも、オイル系のソースにも、一番コツがいる「茹で」を省いて、乾麺のような保存性も期待できる半生パスタは、私のなかで「レストランが一番!」だったパスタ料理を「うちが一番!」に入れ替えてくれた革命的な作品です。