プレマシャンティ開拓チーム 横山@フランスです。
日本を扱ったミニコミ紙で、愛知の味噌に関する記事を見つけました。
醸造関係の方や愛知県でお仕事をされている方とのお付き合いが深いために、頻繁に耳にするのだと思っていたのですが、改めて調べてみると、とても広い範囲で話題になっていた様子。今更ながらに驚いています。
自分自身の学びも含め、以下にざっと背景を整理します。
ご存知の方には余談になりますので、読み飛ばしてください。
2014年に「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」が、産地の名称を知的財産として登録し、保護する目的で制定されました。夕張メロンや神戸牛などがその例です。生産者の努力で味や品質が向上し「市場」に認められた結果、「産地」に付加価値が生まれ、特定産地名の商品が他よりも高価で取引されるようになった反面、同じ産地名をつけた「類似品」が出回るようになりました。消費者には本当にその「産地」から来たものなのかの判断も難しく、またその産地にルーツを持つ「たね」を別地域で育てたものなども混ざりはじめ、産地の範囲も曖昧になっていたりと、「産地」の信頼を損ねる要素が増えてきたこともあり、地域名称のブランド化がはじまったようです。この法律によって産品と関係付けられた地域名称が知的財産として登録されるようになり、登録された商品には、地理的表示産品であることを示すGIマークが表示されるようになりました。
愛知の味噌は2017年末に「八丁味噌」の名称でこのGIマークの登録を受けたのですが、この際、岡崎市の老舗2社、合資会社八丁味噌(カクキュー)と株式会社まるや八丁味噌はこの対象外となりました。
「八丁味噌」の地理的表示保護制度へは、2015年に先の老舗2社と愛知県味噌溜醤油工業協同組合がそれぞれ申請を出しました。一括で申請がなされたなかったのは、「八丁味噌」の定義の違いです。
老舗2社は「八丁味噌は岡崎城から西に八丁(800メートル余)離れた場所で生まれ、醸造されてきたものである」と定義し、組合は「愛知県でつくられた豆味噌が八丁味噌である」と定義していたため、両者の主張が地理的表示保護認証の登録という場で議論されたわけですが、同制度管轄省である農林水産省の判断は「愛知県」という枠組みを優先し両者に申請の一本化を要請しました。江戸時代からの歴史と伝統を持つ合資会社八丁味噌と株式会社まるや八丁味噌は農水省の判断を良しとせず、申請を取り下げ、結果、2017年5月の現時点では老舗2社は「八丁味噌」の認定マークの対象外となっています。
地理的表示保護制度は、日本だけの制度ではありません。
シャンパーニュやロックフォール、コンテ、コニャックなど日本でも良く知られているチーズやお酒には地域の名称を掲げたものが多く、特に欧州では非常に盛んです。チーズを例に挙げると、AOC、DOP、AOPなどが地理的表示保護制度に該当します。世界貿易機構(WHO)によっても、また世界知的所有権機関(WIPO)によっても厳格な定義がなされており、国際的にも積極的に「地理的表示」の保護に取り組んでいます。
2017年12月に欧州連合(EU)と交渉が妥結したEPA(自由貿易協定)には、この地理的表示が当然のごとく含まれ合意されていますので、日本での「地理的表示」認定商品がEU圏内での保護対象となるわけです。
古くから厳格な審査基準を設けて地理的表示制度を運営してきた欧州の中でも、チーズとワインという分野ではとびぬけて厳格な審査を続けてきたフランスの地理的表示制度は、世界最高峰といっても過言でないくらい信頼の厚い制度です。2回の大戦の負債を「食」の輸出でまかなったのだと豪語してやまないこの国で、日本の伝統食品に対する地域認証制度が話題にならない訳はなく。「地理的表示(GIマーク)」対象品目は好奇心の対象となり、その実情をしろうとする民間団体もあったりします。事実を伝えるのが大好きなのかフランスのこの手の報道には概してドラマ性がありませんが、過去にはオーガニックを売り物にするスーパーで販売している非有機の生鮮食品を調べ、調査結果とその過程とともに「一般スーパーよりも残留農薬値の高い商品を販売していた店名」を淡々放映していました。あくまでも事実の羅列と現地調査が基本のこの手の報道機関が日本に来たとき、「八丁味噌」の認可がどう受け止められるのか、日本の「地理的表示」がどう受け止められるのか、更には日本という国の体質がどう受け止められうのか、大変興味があります。