おかげさまのチカラ

治療院なので、いらっしゃるのは痛みや何らかの症状を訴える患者さん。治療させていただいた後には「どうですか？」と確認のために尋ねます。「おかげさまで、ずいぶん楽になっています」と答える人、「まだ、こことここに痛みがあります」と言う人、それぞれですね。ひとつの傾向としては、その次に来院されたとき、前者はさらに程度が良くなっていて、後者は同じくらいか、もしくはやや後退していることが多いものです。「良くなっている」とおっしゃる人のほうが、治っていくスピードが早いものです。

クルマの運転で「危ない」と思って壁の方向を見るほどそちらに進んでしまうように、人は見た方向に動く。「良くなった」と思う人は、良くなったところを見て、動かせる範囲で動かしていこうとするので、その結果としてさらに改善していく。「まだ痛い」という人は、痛いところだけを見て動かそうとはしないので、固まってしまってさらに悪化していく。見る方向にしか進まないのです。

病気になった、ケガをした。それは不運もあれば、ご自身の不注意もあるでしょう。ただ、その後の経過は自分で決めることができるのです。

「おかげさま」とは、お陰さま。陰で働く見えない力に感謝するからこそ、その力が働いてくれるともいえるでしょう。

災害でもなくならないもの

震災や災害を通して、かたちのあるものや目に見えるものは、ある日突然になくなってしまうことがあると経験してきました。時代の流れとして、生活するモノが増えていくことが豊かさと考えられた時代から、持ち物を必要最小限にするミニマリストと呼ばれる人たちが増えているのも自然な流れといえるでしょう。

豊かさとは選択肢がたくさんあることだ、とかつては言われていました。でもいまは、「自分にはこれだけしかない」といえることこそが豊かさなのではないかと感じています。僕は僕だ、と言い切れること以上の豊かさはない。あれもこれもというのではなく、むしろ一定の限りがあるからこそ自分らしくいられて、自由が輝く。そんな気がしています。

自分自身のことは自分がよく知っているようでいて、自分の価値というものを最も知らないのが自分かもしれません。その意味で、自分の価値を見つけられること以上の豊かさはないのではないでしょうか。災害が起きてもなくならないもの、自分の知識や技術、知恵、そして想い。こうしたものを、いま一度見つめ直す機会をもってみるといいでしょう。

鷹の爪を見習う

「能ある鷹は爪を隠す」と言われます。一方で、ＳＮＳの拡がりとともに「能ある鷹は爪を出せ」と言う人もいます。どちらを自分が求めるかであって、どちらが正しいということはありません。

ただ、見せびらかしている暇があるのなら、その間を惜しんで爪を磨いていたいなと私は思います。

「鷹の爪」といえば、料理ではスパイスに用いられますね。一口食べたときに「あ、使ってるね」と感じるくらいの存在感がちょうど良い味を出します。これは人間関係においても同じこと。そこにいることを「知ってるよ」と存在を認め合えるくらいがちょうどいい。スパイスが自己主張しすぎていたら、その料理はとてもじゃないけど食べられたものではないでしょう。同様に、自己アピールも過ぎてしまえば、孤立しかねません。

老子のことばに、「善者不辯、辯者不善（真に善なる者は多くを語らず、多弁の者ほど善行がない）」とあります。自己主張はもちろん大切ですが、それよりもっと大切なのは、どんな想いをもった存在であるかということではないでしょうか。それがわかればいいのであって、必要なのは上手にしゃべることでも多くを語ることでもありません。自分なりの想いで、自分の信じることを日々実行していくこと。

孤独を恐れず、人からの評価も求めない。本当の安らぎと平和は、比較や競争を超えた自由な選択の先にあるもののようです。

圭鍼灸院　院長　鍼灸師
マクロビオティック・カウンセラー
西下 圭一（にしした　けいいち）

新生児から高齢者まで、整形外科から内科まで。
年齢や症状を問わないオールラウンドな治療スタイルは「駆け込み寺」と称され医療関係者やセラピストも多数来院。
自身も生涯現役を目指すアスリートで動作解析・運動指導に定評がありプロ選手やトップアスリートに支持されている。
兵庫県明石市大久保町福田2-1-18サングリーン大久保1F
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http://kei-shinkyu.com