新しいピザの世界
ヴィーマヨ®が完成したことにより、あらゆる応用の可能性が広がりました。私が自ら製菓の世界に入った入口は、イタリアの菓子であるジェラートでした。国際コンテストも開催されていましたので、当時はイタリアに足しげく通っていました。ピザはイタリアの伝統のなかではチーズを多用するのが一般的ですが、当然、ヴィーガンの方は通常のピザを食べることができません。
ジェラートも同様に、乳製品を使うのが常識です。たしかに、ソルベやグラニータのように果物をベースに作るものもありますが、これらはさっぱりとした仕上がりで、日本人が「アイスクリーム」という言葉から想像するものとは、かなり隔たりがあります。私は、濃厚さのあるミルク系のニュアンスを持ちながらも、100%プラントベースで、しかも合成添加物を使わず、劇的においしいジェラートを作ることを志していましたので、その概念をピザに持ち込むことは、ごく自然な流れでした。
だれかの「懐かしさ」を理解する
なにより、私が自らのレストランを開くにあたってずっと考えていたのは、京都を訪れる欧米系の方々にとって、日本人が欧米を旅したときに「米が食べたい」と渇望するような感覚の逆パターンとはなにか、ということでした。日本に来た外国人が、寿司を、カレーを、ラーメンをおいしいと言って食べていたとしても、彼らの感覚において懐かしさを呼び起こす味や香りの要素は、「少し焦げた小麦やチーズなどのベイクされた感じ」ではないか、という仮説を立てたのです。そこで、彼らの渇望を癒やすようなメニューを考えました。ヴィーマヨの素材に燻製にした調味料を用いたり、焼成に強い植物性チーズを使ったりして、そのベイク感をしっかり添えることにしたのです。それを骨格にし、日本の食品のなかでも世界的に通用する健康素材であるキノコやひじきを、発酵食品や玉締めのごま油で炒めたものをトッピングした『日本の叡智を呼び覚まそう』というピザは、私自身のお気に入りでもあります。ほかにも、私が世界を旅して「これはおいしい」と感じてきた各国の香りを表現するトッピングを開発し、イタリアはもとより、タイ、インド、韓国などの味わいも加えることにしました。世界平和のために、海外から来る皆さんを食の制限を超えておもてなししたいという私の動機が、結果的にだれにとっても「これは新しい」と思っていただける組み合わせに転化していったのです。
正直に申し上げますと、私はそれほどピザが好きなわけではありませんので、イタリアに行っても、ピザはあまり食べません。その理由のひとつが、すでに述べたようなチーズ過多です。私はむしろ、プレマルシェ・オルタナティブ・ダイナーの食事として供されるヴィーマヨが醸し出す、どこか懐かしく、それでいて爽やかさの演出のなかにしっかりしたベイク感がある味わいのほうが好きなのです。ジェラートでも、乳製品を使えばおいしくなりやすいのは事実ですが、素材の良さを感じられるのは、むしろ乳製品をあえて使わずに、乳製品の雰囲気を感じさせるフレーバーたちのほうが、個人的な好みに合っています。また、ピザのトッピングは(モッツァレラ・チーズを選ばれた場合を除き)すべて動物性素材を含まないものだけで構成し、なおかつしっかりした味付けで調理しています。そのため、通常のチーズを添えればその旨みがさらに強く感じられますし、「チーズもどき」であるヴィーガンチーズを選んだ場合でも、そのチーズ自体の味や香りの乏しさをしっかり補えるようなバランスを引き出しています。ヴィーマヨの全体を調和させる働きが、それを実現させてくれているのです。
