がんの告知には3つの段階があります。1つ目が、前回お話しした病名告知で、ほとんどすべての方に行なわれます。 2つ目が不治であることの告知です。はじめに使用した抗がん剤治療の効果が乏しい場合、別の抗がん剤など検討しますが、どちらにしても患者さんの体には負担がかかります。ですので、ご本人が治療を希望しても、医師の医学的な判断で治療の続行が難しくなっていくこともあります。また、それまでの治療があまりに苦しかった場合など、ご本人が治療を止めたいと言うケースもあります。そういった場合に、これ以上の治療継続が難しいという不治の告知が行なわれます。 不治の告知を受けた患者さんでも、すぐに何か起こるわけではなく、症状が出ていない人も見られます。あとになって急に症状が出ることもあれば、例えば前立腺がんなど、慢性疾患のように長期にわたりつきあえるがんもあり、不治の告知後の期間は、がんの種類によってずいぶん異なります。 3つ目が、余命告知です。この状態で進行していくと、何か月後にはこうなると、はっきりした段階で告知されます。 現在、8割の方は病院で亡くなり、約1割前後の方がご自宅で「在宅ホスピス」を受けてすごされます。在宅ホスピスとは、きちんと医療にバックアップされ、痛みの緩和を行いながら、自宅で最期を迎えるための体制で、現在は、ご本人や家族の希望に基づいて病院から紹介されて利用する方が多いです。 患者さんの立場から考えると、病院では「患者」扱いですが、自宅なら普段着で過ごせ、例えば「家長」であるなど家族の中で自分が果たす役割があります。病院は共同生活である以上プライバシーが保たれませんから、トイレやお風呂、寝る際なども、やはり家庭のほうがリラックスできます。また、病院では好きなものを飲食できず、自由に人やペットと会えませんが、治療しない以上、そういった集団ゆえの不自由を我慢する理由がありません。さらに、趣味や、この先家族に遺すものの準備など、やりたいことをするためのものが、自宅にはあります。総じて患者さんが、生活することに重心を置いた場合、協同生活の病院より、在宅ホスピスを受けるほうが居心地がいいといえます。 ご家族の立場から考えると、家庭に患者さんがいることでの精神的・肉体的な負担を心配する方もいらっしゃいます。それぞれご事情があるとはいえ、在宅ホスピスは、家族の方にもメリットがあります。 最近では緩和ケア病棟も増えていますが空きも少なく、一般の病院では治療しない患者さんの長期入院は難しいので、余命告知後の入院先は患者さんやご家族の都合やタイミングで選べない場合がほとんどです。そして家族が病院に通う生活は、自宅の家事をして、移動と病院滞在のための時間をつくり、持ち帰りの衣類を洗い……など、生活とお世話の両立ができないぶん負担が大きくなります。一方で、家に患者さんがいると、生活しながらお世話ができ、気になったときにはすぐに顔をみることができ、移動の時間が必要ないのは大きなメリットです。 また、家庭で看取るほうが、ご家族の後悔は少ないようです。残された時間に限りのある患者さんは、ほんの2、3日の間に、大きく様態が変わることもあります。家庭でなら、日々できないことが増える様子を目で看て理解でき、そこに医師の対処で苦痛が和らぐのを見て納得・安心できます。また病院では家族が患者さんにしてあげられることはほとんどありませんが、家庭でなら、家族がトイレに付き添ったり食事を作ったり、できることがあります。ご家族にとっても、残された時間が有意義で、理解・納得のいくものとなります。 とはいえ現状では、在宅ホスピスはさほど認知されていません。その背景には、それをしっかり行える医師が少なかったという事情もあります。本来、医師は治療について学ぶもので、治さない患者に対する医療は専門外の方が多かったんです。が、今では、在宅医療、緩和ケアに関する医学部での教育も始まり、その人らしい最期を迎えるための医療も認知されています。裾野は広がっていますから、今後は在宅医療施設も増え、患者の側が選択眼をもつ必要も、出てくると思います。
<文:らくなちゅらる通信編集部>
談:賢見卓也(けんみ・たくや)
1975 年、神戸市生まれ。兵庫県立看護大学看護学部卒業後、東京女子医科大学病院中央集中治療室などに勤務。日本大学大学院グローバルビジネス研究科ヘルスソーシャルケアコースを修了し、2009 年、がん専門生活サポートを行なう株式会社トロップス代表取締役に。2013 年、NPO 法人「がんと暮らしを考える会」理事長も兼任。同NPO法人監修で、がん患者の経済的な問題に関連した制度を検索できるWEB サイトも立ち上げる。 |