20年前から高品質のヘナを輸入販売している株式会社エコノワ。美容室で使われる薬剤で肌荒れなどに悩む人を救いたいと、健康によくて綺麗になれるヘアケア製品を開発してきました。人にいいものは、環境にもやさしい。日本にヘナを広めることへの思いや、髪や頭皮を傷めない本当のヘアケアについて、社長の幸村氏にお話しいただきました。
第2子が誕生したばかりの幸村さん。多忙な日々を支える健康法はサウナや運動による毒出しやクロレラのサプリメントだそう
株式会社エコノワ
代表取締役社長
幸村 龍(こうむら りょう)
愛知県生まれ。中学生のときにヘアスタイルでイメージチェンジを経験し、美容師を志す。美容室にて約6年間サロンワークを経験し、ヘアケアメーカーに転職。営業兼講師として美容師向けの講習を年間180回以上担当する。株式会社エコノワに入社後は美容師と豊富な講習経験を活かして自社製品の商品開発、営業販売、サロン向け講習・研修をおこなっている。2024年から代表取締役社長に就任。
▶︎株式会社エコノワ https://econoix.com/
後悔したくないから
夢を叶える人生を選ぶ
——美容師になったきっかけはなんですか?
中学2年のときに、美容学校に通っていた5歳上の兄に髪を切ってもらったんです。当時、田舎ではあまり見たことがない髪型にしてもらったので、いきなりすごくモテたんですよ。そのときに、人ってヘアスタイルでこれだけ印象が変わるんだなと、衝撃を受けたんです。それから美容の世界に引き込まれていった感じですね。ただ、両親は美容師という職業をあまり良く思っておらず、兄に反対するのを見ていたので、「僕も」とは言い出せなくて。英語が得意だったので外国語大学に進学しました。
そして卒業する年の3月に、あの東日本大震災が起きました。生きているのって当たり前じゃないんだなと感じながら、ふと、もし自分が美容師をやらずに死んだら後悔するだろうなと考えていました。そうした葛藤がありながらも、内定が決まっていた大手衣料販売店に入社しました。がむしゃらに働くなかで、いつもバックヤードでミシンをしている70代ぐらいの女性との会話が僕の癒しでした。あるとき、こんなことを聞かれました。「あなた、夢はあるの?」と聞かれて、「本当は美容師になりたいんです」と話したら、「やりたいことがあるなら早いほうがいいよ。私もこの会社を23歳で創業したの。すごく大変だったけどすべてを捨てて挑戦したから」と。彼女は当時の会長の奥さんだったのです。そこで店長に話をしたところ、「もう明日から来なくていいから、やるならニューヨークで活躍できるぐらいになれよ」と背中を押してくれました。その翌日には辞表を出して、未経験でも雇ってくれる美容室を必死に探しました。
——修行時代はどうでしたか?
それからの3年間は、美容室で見習いをやりながら、休日は通信制の美容学校に通いました。毎日早朝から夜の10時ごろまで、仕事と練習の日々でしたが、自分で決めたことなので、つらいとは感じなかったですね。
——美容師になってどう感じましたか?
自分でお客さまを担当するようになってからは、少しずつ実感がこみあげてきました。僕は、10代や20代の若い人たちに、自分が本来持っている魅力に気づいてほしくて美容師になったんです。自分のことを冴えないと思っている子たちが、普段やらないようなヘアスタイルにしたときに、自分の姿を見てすごく目が輝くんですよ。自分の魅力を知って自信を取り戻すこと。そんな瞬間に立ち会えると、美容師になって良かったと思いました。
技術的な面で実感したのは、髪や肌を美しく保つためには、デザインだけでなく理論が大事だということです。お客さまにヘアケアの的確なアドバイスをするには、毛髪の仕組みなどを科学的に理解している必要があるんです。僕は、美容室にヘアケア用品などを卸している美容メーカーに問い合わせをして勉強していました。同僚からは「博士」とあだ名をつけられるほど(笑)おそらく、そこまで熱心な美容師はめずらしかったのでしょう。あるとき遠方の美容室のオーナーさんがお忍びでヘッドスパの施術を受けに来てくれて、あれこれ語っていたら、「ぜひうちで講習してくれないか」と誘われました。そこで初めて、美容師という役割を超えて、美容師向けに講習をすることになったんです。
ヘナで得られる
安心と喜びを伝えたい
——そのときの心境はどうでしたか?
自分なりに資料を作って講習したときに、「これが自分の生きる道かもしれない」という感覚がありました。このために研究してきたんだなと。そこで、前に講習を受けたことのある美容メーカーのもとへ転職したんです。代表の話が秀逸で、尊敬に近い気持ちを抱いていました。入社してからは年間180回以上、講習を担当することになりました。
——すごい回数ですね。講習をする意義はなんですか。
メーカーは良い製品を作ったとしても、美容師がその価値を理解していなければお客さまに届きません。だから講習を通して、なぜそれが必要なのかという情報をしっかり伝える必要があるんです。ただ、美容師の本音としては講習はイヤなもの。日中忙しい営業を終えた後に勉強するなんて面倒くさい。それをいかにやりたいと思ってもらえるか、やるとなったらどれだけ価値の高い講習にできるか、そして講習後のフォローも大事です。うまくいけば、メーカー、美容師、お客さまの三方にメリットがあります。
——転職先でどんな経験をしましたか?
当時の会社の代表に強烈なカリスマ性があり、尊敬しながらもついていくのに必死でした。その方の、やり抜くための努力の量とか、相手への気遣いなどがずば抜けていて、営業パーソンとして大きく成長させてもらった時期だったと思います。仕事のやりがいはあったのですが、タバコと酒と女といういわゆる「男社会」の環境だったので、2年ほどで体調を崩してしまったんです。顔色は土色になり、倦怠感がひどくて、辞めざるをえなくなりました。僕は酒もタバコも身体に合わず、ドロドロとした売り上げ主義な価値観も合いませんでした。
——その後、エコノワとどのように出合ったのですか?
僕にとって、美容師の経験を活かしながらメーカー業もやれるのが理想でした。美容に対する思いと、人に伝える能力を活かせるからです。あるときエコノワを見つけて、「あ、ここだ」と直感しました。そこで、良質なヘナの素晴らしさを知り、当社の看板商品の「太陽と大地のヘナ」をもっと世の中に広めたいと心から思ったんです。最近はヘナ専門店も見かけますが、僕が入社した7、8年前はヘナの知名度は低く、とくに化学物質が添加されたケミカルヘナと天然100%のヘナとの違いまでは知られていませんでした。20年以上前から有機無農薬栽培のヘナ100%を取り扱っていた前社長の武藤はかなりの先駆者だったんです。
——ヘナの良い点を教えてください。
なんといっても、お客さまが安心して髪を染められるということです。市販のヘアカラー剤でありがちな、「髪や頭皮が荒れるかも」「こんな刺激臭がするものを使いたくないけど仕方ない」といった心配や罪悪感がまったくありません。今昔を問わず、女性にとって白髪を染めるって心の面でも大事なことですよね。聞いたところでは、戦時中の不安定な情勢下でも女性は白髪染めをしていたそうです。いつも美しくありたいと願うなかで、とくに最近は健康意識や自然志向の高まりで、アルカリカラーで染めたくない方や体質的に染められない方が増えています。自然なライフスタイルに馴染む、唯一のヘアカラーがヘナなんです。
——利用者からどんな反応がありますか。
ヘアサロンと一般のお客さまの両方からお声をいただきます。ヘナに興味を持つ美容師さんは、薬剤が肌などに悪いとわかっているのに、それをお客さまに薦めていることに葛藤しています。でも世の中にヘナの正しい情報が少ないので取り入れることに迷いがある。そこで僕が一般的な美容室での経験も含めて、ヘナの詳細や使い方を伝えると、「私自身も安心して染められるし、お客さまにも適切な情報提供と施術ができます」と喜んでいただけます。一般のお客さまには、丁寧にお伝えするためにSNSで直接質問を受けています。そこではよく「これまで誤解してたけど、よくわかった」「使い始めてから髪がきれいになった」といった感想をいただきます。僕は、ヘナが売れるから嬉しいというより、悩んでいる方にヘナという解決方法を届けられることに一番やりがいを感じています。また、美容師のころからカラーが好きで調合にこだわっていたので、その経験を活かしてヘナでもラベンダーアッシュやマットアッシュといった他のメーカーにない色を提供しています。「わかりづらい」「使いづらい」というヘナのイメージを覆して、本当のヘナの魅力を知っていただきたいですし、もっとヘナを楽しむ選択肢を広げていけたらと考えています。
歳を重ねることに
自然体で向き合う
——ヘナならではの楽しみ方がありそうですね。
ヘナは染めるのと同時に髪の健康を取り戻すこともできます。白髪というと、隠さなきゃと感じる方が多いと思います。でもヘナを使い始めると、白髪をケアしながら付き合っていくという感覚に変わります。あるお客さまは、髪の表面にだけある白髪をヘナで染めたので、ハイライトのようになった。そして髪を束ねたときに、内側には白髪がないので「ここにも白髪があれば可愛いかったのにね」と仰ったんです。白髪も含めてヘアスタイルを楽しむ感覚に驚きました。ああ、これがヘナによる意識改革なのだなと。白髪に対する恐れや嫌な気持ちがなくなると、すごく楽になると思うんです。当社のヘナには、白髪をきれいに保つための「グレイヘア」というカラーもあります。少し青紫色が入っているので日本人特有の白髪の黄ばみを取りながら、白髪を美しく保てます。ヘナは、歳を重ねることに対してもっと自然体に向き合えるし、なんなら遊び心すら持てるよ、ということを教えてくれます。便利さ、おしゃれ、美しさ、どれもあきらめる必要はないんです。
——人にはもちろん環境にも無害ですね。
多くの美容師さんが職場で使う薬剤で肌が荒れるように、僕自身も美容師時代には肌荒れなどの健康問題を抱えていました。今健康を取り戻して感じるのは、健康のありがたさです。健康だからこそ成長もできるし、生活を楽しむこともできる。正しい情報を得て健康的に暮らすことが大切ですが、それは自然環境にも同じことがいえます。美容室は全国に27万軒ありますが、そこからパーマ剤などの薬剤が大量に垂れ流されているのが現実です。汚染された水はどこに行くのでしょう。全国にヘナが広まれば、かなりの環境負荷が減るだろうと思います。人や環境が健康になり、大げさではなく、ヘナで人の健康や環境を改善することで、日本を変えるというのが当社の大きな使命です。
——ヘアケア製品の「ユアース」も主力商品ですね。
これも天然成分100%で、頭皮からのスキンケアを考えて開発した製品です。当社がヘアケアの根幹と捉えているのが「とことん髪と頭皮にやさしいこと」と「サロン専売品に負けない仕上がり」です。頭皮や髪へのやさしさと、サロン専用のヘアケア製品のような手触りやツヤ感、香りなどを両立させているのが強みです。市販の製品には、毛髪補修などと謳っているものもありますが、髪は死滅細胞なので「治る」ことはありません。いかに負担なく洗えるかと、良質な成分で保湿するかが基本です。傷める成分を入れないために、たとえば防腐剤を天然の成分で代用すると保存効力試験という高額な試験をする必要があります。それでもちゃんとしたものを届けたいので妥協はしません。美容製品は、見た目や広告ではなく、心身が気持ちいいと感じるかどうかが大事だと思います。
——商品づくりにも商品の魅力を伝えることにも、幸村さんのこれまでの経験が活きていますね。
振り返ってみれば、子どものころから興味の赴くままにいろんなことを経験してきました。周囲からは「なにも長続きしない」などと言われてきましたが、いろんなことに挑戦したからこそ、点と点がつながって、今があると感じています。とくに商品開発のうえでは、自分の経験から「こんな商品が欲しい」と思ったことがヒントになっています。去年の2月に代表取締役になってからは、会社経営にも注力しています。これからも社員が幸せに働きながら成長できる環境をつくり、一緒に「髪本来の美しさ」を伝え続けていきたいと思います。