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特集

インタビュー取材しました。

アートの癒す力で創造の場を広げる 画家・臨床美術士 フルイ ミエコ 氏 インタビュー

投稿日:

絵を描くのが苦手だと思っていても、だれもが楽しく自分らしい絵を描けるようになる。そんなアートセラピーを届けるのが、画家であり、臨床美術士としても活躍するフルイミエコさんです。認知症の方や子どもたちとの現場での経験から、創作への思いまで。臨床美術とアートの魅力について話を伺いました。

「音楽を聴いたり歌ったりするように、アートも気楽に楽しんでほしい」とフルイさん(右)。臨床美術の創始者の一人で牧師の関根一夫氏(左)と

画家 臨床美術士
フルイ ミエコ

大阪府生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。百貨店や画廊での個展にて油絵作品を発表。臨床美術士として、認知症の方や子どもの創作をサポートするアートセラピーの仕事にも携わる。2022年に一般社団法人ARTAlongを設立。「ARTを味方に!」をコンセプトに、だれもが人生にアートを取り入れて命(Life)の味方にするための活動をおこなっている。
▶︎フルイミエコ公式サイト https://www.furui-mieko.com
▶︎一般社団法人ART Along https://art-along.wixsite.com/website

 

自然な流れで
美術の世界へ

——もともと、絵を描くのが好きだったんですか?

子どものころ、親戚のおばちゃんに絵を褒められたのがきっかけで好きになって、時間があれば、いつも絵を描いていましたね。裕福な家庭ではなかったし、なにか欲しいものがあれば、おもちゃでもなんでも、自分で工夫して作って遊んでいたのを覚えています。小学生のときに見た絵が忘れられなくて、中学校を卒業した春に、その絵を買いに行ったんです。親にお金をくださいとお願いして、その絵描きさんを自分で探して訪ねて行って。両親もそんな姿を見ていたからか、美大に行くことも、すんなり応援してくれました。

——美大ではどんなことを学びましたか?

大学に入ったら、まず世界がぐんと広がったように感じました。そうなると、それまで自分が持っていた「こういう絵が描きたい」という思いも、ぐらぐら揺れるんです。アトリエにこもって創作をしていると、思いが募って煮詰まってしまい、しんどさを感じるときもありました。そんなとき、野外イベントに参加したんです。人前で絵を描いたり、作品を展示したりするなかで、人と自然と仲良くなれるし、地域の人たちが絵を見に来てくれる。それを経験して、「あぁ、絵を描くって楽しいし、人とつながるきっかけにもなるんだな」と、再認識しました。作品を完成させるだけではなくて、描いている過程での発見や、思索の深まり、自分が得ているものの多さに気づき、それは、描き手へのギフトじゃないかと考えるようになりました。

アートには、鑑賞する楽しみもありますが、自らが作り手として創ることにも大きな価値があります。自分と対話するような感覚で、なにかを創ること。それはプロでなくても、本来みんなが享受できるはずのものです。

それで、在学中は「美術の社会的役割」をテーマに、どうすればアートがもっと身近になるのかを研究していました。ちょうど私が卒業するころに、日本でもエイブルアートの取り組みが紹介されはじめ、勉強会などにも参加しました。でもやっぱり、「ハードルが高いな」と感じたんです。うちの両親のように、普段まったく絵を描かない人たちに、いきなり紙を渡しても困るだろうなと。「みんなが描ける」環境の作り方が、私には見えなかった。いったんそれは置いておいて、高校の美術の非常勤講師になりました。19年勤めながらも創作を続け、30代は絵を描くことに専念したんです。10年経って、画廊の企画で個展を開かせていただけるようになったころ、臨床美術に出合いました。

——どんなきっかけだったのですか?

当時、主宰していた子どもアトリエで、他の教室との差別化のために、アートセラピーの資格を取ろうと考えたんです。調べてみると、アートセラピーの多くは、描いた絵を分析してカウンセリングをするもので、私にはピンとこなかったんですね。あまり当たってないし、よけいなお世話じゃないかって。唯一、絵を分析したりしないのが、臨床美術でした。それを紹介する本を読んだときに、もう心の底から感動しました。絵に興味がない人にも、どうしたら創作を楽しんでもらえるかという答えが見つかった気がして。「学びたかったのはこれだ!」と、飛びつくようにして臨床美術士になりました。私は、最終資格の1級まで取得しました。

自分とつながり
「感じて」描く

——臨床美術の特長を教えてください。

臨床美術は、1996年に、彫刻家の金子健二先生が日本の医師と家族ケアの専門家と一緒に開発したアートセラピーです。先生の知り合いがアルツハイマー型認知症になったとき、認知症の症状の改善には脳の活性化が鍵だと知って、アートを活用できないかと考えたのがきっかけでした。認知症予防としてドリルを解くことがありますが、あれは左脳モード。楽しいものではないし、間違えると意欲が落ちてしまったりしますよね。一方、創作活動は右脳モード。感覚優位のネットワークを刺激し、楽しみながら脳を活性化できます。それに興味を持った脳神経外科のお医者さんや美術家の方々が、現場での実践を始めました。私が学び始めたのは2006年です。その時点で、すでに10年分の現場での実績があり、プログラムの完成度がとても素晴らしいと思いました。

まず、アートへの苦手意識が自然とほぐれていく内容になっています。日本では、8割の人が「絵を鑑賞するのが好き」と答えるのに、同じくらいの人が「描くのは苦手」と感じているそうです。臨床美術の講座に来る方も、「お医者さんに勧められて仕方なく」という場合が多いです。だから、最初が楽しくなければ次は来てくれません。だから、初回からだれでも「あれ、私がこんなの描けちゃった」と感じられるように工夫されているんです。

そして、描いた絵を分析しないので、上手い下手の評価がない世界です。よく、写実的に描くことが上手という思い込みがありますが、それは表現方法のひとつにすぎません。本当に大事なのは、しっかり感じて描くことなんです。たとえば、ナスを描くとしたら、ただ見るだけじゃなくて、触ったり、叩いたり、切ったり、においを嗅いだり、味わったり。そうして得た新鮮な発見を、色や形に変えて表現します。すると、すごくその人らしい表現が出てくるんですよ。逆に、感じないで描く典型的なものがシンボルです。ハートや星など、生活のなかにあふれているマークは、個性がないことに価値が置かれています。臨床美術はそうではなく、「今」この場のリアルなものを感じ取る力を大切にしています。観察も、描くのも、鑑賞も、すべて「今」起きていること。そのなかで、自分との対話が生まれます。それはマインドフルネスや瞑想とも通じるので、心と体にとてもいい影響があるんです。

講座の最後には、みんなで作品の鑑賞会をします。私たちは、「上手」とは言わず、飾らない言葉で、良いところを具体的に伝え合います。ここではだれも否定されない、安心できる場所。だれかと創作の時間を共に過ごし、成果を認め合う時間も、貴重なプログラムの側面です。

——どのように臨床美術の活動を始めたのですか?

臨床美術士になった当初、京都にはまだ資格保有者がいなかったので、「京都臨床美術をすすめる会」を立ち上げて体験会を開き、仲間を増やしていきました。2009年からは京都府立医科大学の神経内科でも認知症の方と家族向けの講座が始まり、障がい者施設やデイサービスにも広がっていったんです。私にとって、現場で教えてもらったことがとても大きいです。「感じればだれでも描ける」と言っても、認知症の母の姿がよぎり、「本当に描けるかな」と不安に感じたこともあります。でも、いざ始めると、みなさんがその日の自分を精一杯、表現していく。それが素晴らしいなと、毎回思いますね。

——実際、受講者にどんな変化が見られますか?

職員の方が「この方は描かないかもしれない」という方でも、どんどん描き出すことがあります。車椅子の方が、鑑賞会で自分の絵が貼り出されたら、立ち上がって歩き出すとか。自分の名前を作品に書き入れるときに、普段は字を書けない方が、すらすらと書いたこともありました。ご家族が、「昨日は遺言書の書類にサインしてと何度言っても書けなかったのに」とおっしゃるんです。脳が活性化していることもありますが、自分の作品に「自分のものだ」という実感があるからだと思うんですよ。そんな奇跡のような事例が、全国の臨床美術士の現場で頻繁に起きています。

 震災後は能登での活動も続けている

社会の困りごとに
アートで寄り添いたい

——臨床美術の活動は、画家としての創作活動にどんな影響を与えていますか?

臨床美術士として活動するなかで、なにより衝撃を受けたのが、認知症の患者さんたちの作品の素晴らしさです。かっこつけずに、一生懸命に描くからこそ、本当に嫌味のない、素直な表現になります。それを目の当たりにするたびに、「人の心を揺さぶるものってなんだろう」「伝わるってどういうことなのかな」と考えさせられるんです。私は何十時間も油絵を描きながら、ああでもないこうでもないとやっているのに。魅力的な作品って、制作時間の長さでも、重ねている絵の具の厚さでもない。やっぱり描いている人が楽しんでいるかどうかが大きいと思います。私自身の絵がダメになるのは、たいてい、自分がなんとかしようとジタバタしているとき。だからアトリエでも、描いていておかしいなと気づいたら、ひと呼吸おくようにしています。そんなふうに、いつも自分が楽しく創作することを大切にするようになりました。

——画家として創造したいことはなんですか?

大学時代は現代美術のクラスに在籍していて、今は油絵をしっかり描いています。表現方法はまったく変わりましたね。油絵は、30代に独学で始めたんです。そのころ、私は描くことそのものが好きだなと気づいて、クラシックな油絵に挑戦したくなったんです。絵画は物質で作られていて、油絵の具には、さまざまな表情を出せる、特有の魅力があります。たとえばモナリザもゴッホも油絵ですが、タッチはまったく違いますよね。薄塗りだったり、デコボコだったり。私も、自分なりの油絵の表現としての豊かさを、キャンバス上で模索しています。細かなマチエールがとても好きなんです。どんなモチーフも描きますが、私のこだわりは、マチエール。そうやって創り上げた画面が、見る人の暮らしの一部になって、かけがえのない存在になってくれたら、本当に幸せですね。

——2022年に一般社団法人ART Alongを立ち上げたのはなぜですか?

きっかけはコロナ禍でした。臨床美術の講座が中止になり、「私たちは弱いな」と感じました。臨床美術には経費がかかり、環境も必要で、受け入れる施設や病院にもエネルギーを求めることになります。だからこそ、臨床美術がもっと社会的ニーズとしっかり結びつく在り方が必要なのではないかと感じたんです。たとえば、孤独や孤立の問題、認知症や介護の問題、不登校とか、社会にはいろんな課題があります。それぞれの課題のなかで努力している方や団体の活動にアートがかかわることで、良かったなと感じてもらえるような形にしたい。そうした出会いのなかで、臨床美術が社会的に定着していけるんじゃないかなと。

そのころ、「伴走型支援士」の資格を取ったことで、一層、臨床美術は有用性の高い社会資源なんだなと実感しました。それをもっと必要な人のところに届けていこうと思って、法人を立ち上げました。コンセプトは「アートを味方に!」です。アートがその人の健康や人生に寄り添うものとして、いつでも身近にある。そんな思いを団体に託しています。

——今後めざしていることはありますか?

今は臨床美術の講座に費用が必要ですが、将来的には、介護保険が適用されたり、リハビリテーションの一環として実施できるようになることをめざしています。京都の活動拠点も、認知症ケアの中心として、さらに広げていきたいと思っています。特に懸念しているのが、M‌C‌I(軽度認知障害)の方々です。医療機関で「趣味でも始めましょう」と言われて、それっきりになっている方がとても多いです。高齢者だけでなく、若い方でも「ちょっと心配だな」と感じるときの、安心できる居場所でありたいと願っています。

ART Along のアート講座

フルイさんが代表理事を務めるART Alongでは、臨床美術を楽しめる講座を、対面とオンラインのそれぞれで開催しています。また、まずは無料で体験できる「アートの手はじめ講座」もあります。お気軽にお越しください!

ART Alongを見てみる>>

アートの癒す力で創造の場を広げる 画家・臨床美術士 フルイ ミエコ 氏 インタビュー

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