本稿は、2025年2月12日に、私が卒業間近な高校3年生に45分間の講演をおこなった際の要約です。読者の皆さまにとって、なにかヒントになることがありますように。
皆さん、こんにちは。本日は寒いなか、こうして集まっていただきありがとうございます。高校生活も終盤、進路が決まった人、まだ迷っている人、それぞれの思いがあると思います。今日は私の経験の話をしたいと思います。
私自身、高校時代はほとんど学校に行けませんでした。家庭の事情でヤングケアラーとして家族の介護をしていたからです。朝早くから新聞配達をし、家では病人の世話をしながら生活を支える。高校の卒業式すら行けませんでした。進学を希望しても、経済的な理由で大学へは行けなかった。それでも、私は今、事業を経営し、国際コンテストで入賞するような食べ物を作る仕事もしています。では、どうしてそんな人生を歩んだのか。それは、「頼まれる人」になろうと決めたからです。
皆さん、日常で「ちょっとこれお願い」と頼まれること、ありますよね?雑用かもしれないし、だれかの手伝いかもしれない。面倒だなと思うこともあるかもしれません。でも、実は「頼まれること」こそが、自分の未来を作る、また天命を知る大きなチャンスなんです。例えば、私がタクシー運転手をしていたときの話をしましょう。25歳で日本を飛び出し、海外を1年半ほど放浪した後、インドから帰国すると日本はバブルが崩壊して仕事がなかった。そんなときに始めたのがタクシーの仕事でした。タクシー運転手は、お客さんを目的地に運ぶだけの仕事のように思えるかもしれません。でも、私はそこに価値を見出しました。インドで学んだ「あなたは神。私も神、みんな神」という概念を体現しようとしたのです。「狭い車内で、お客様にとって、最高の時間を作ること」に全力を注ぎました。すると、どうなったか。「この人は他の運転手とは違う」といわれ、「是非この人にお願いしたい」と思われる存在になっていきました。そんなある日、「うちで働かないか?」とある社長から声をかけられました。それが、私が会社経営を始めるきっかけになったんです。
仕事だけじゃありません。人生のあらゆる場面で「頼まれる人」は、周りの人から信頼され、新しいチャンスを手にします。例えば、皆さんのクラスに、なにかと「頼まれる人」っていませんか? 先生から「これ手伝って」と言われたり、友達から「ちょっとこれやってくれない?」と声をかけられたりする人。そういう人って、最初は面倒に感じているのかもしれませんが、やればやるほど、周りからの評価がどんどん高まっていきます。逆に、「いや、それは自分の仕事じゃないから」と断る人はどうでしょう? 短期的には楽ですが、信頼も機会も失ってしまいます。
頼まれることで見えてくる自分の「天命」
高校生の皆さんのなかには、「自分がなにをやりたいかわからない」という人もいると思います。でも、それは当然のことです。大人でも、自分の進むべき道がはっきりしている人は少ない。むしろ、「頼まれたことをやっているうちに、自分の得意なことが見えてくる」ことのほうが多いんです。私は、もともと工学系の道を志していました。でも、家庭の事情で進学できず、たまたま始めた仕事が今の事業につながっています。ジェラートを作ることも、レストランを開くことも、最初から計画していたわけではありません。むしろ、外国人観光客の「日本で食事をするのが大変」という声を聞き、「じゃあ、彼らが食べられるジェラートを作ろう」と思ったのが始まりです。これが「望まれたことをできる人になる」ことの大切さです。自分のやりたいことより、まずは目の前の「頼まれたこと」に全力で取り組む。すると、そこに新しいチャンスが生まれ、自分の進むべき道が見えてくるんです。
皆さんのなかには、「自分はもっと別のことがやりたいのに、今の環境ではそれができない」と思っている人もいるかもしれません。でも、大切なのは、どんなことでも、たとえつまらないように見えることでも、全力で取り組むこと。自分で人から頼まれたことの貴賤をジャッジせず、ただ、相手に喜んでもらうために必死にやることが大切です。あれこれ周りを評価しようとする自分の心が、結局自分を腐らせていくこともよくあることだから。「これをやったら自分に得があるか?」と考えるのではなく、「相手のためにできることはなにか?」を考えること。「忙しいから」と断るのではなく、「できる範囲でやってみよう」という姿勢を持つこと。
こうした行動を積み重ねていくことで、気づけば「頼まれる人」になっています。そして、気づけば周りの人から信頼され、さまざまなチャンスが巡ってくるのです。
今、皆さんは高校生活の終わりに近づき、進路について考えている時期だと思います。大学に進む人も、就職する人も、それぞれ違う道を歩んでいくでしょう。でも、一つだけ確かなことがあります。それは、「頼まれる人」になれば、どんな道を選んでも成功できるということです。人生は、自分一人で切り開くものではなく、人とのつながりのなかで形作られていきます。そのなかで、「この人にお願いしたい」と思われる人になることが、幸福への近道なのです。
ぜひ、これからの人生で「頼まれる人」になってください。どんな環境にあっても、一生懸命に取り組むことで、必ず道は開けます。皆さんの未来が素晴らしいものになることを願っています。ありがとうございました。