2011年3月11日より約1年と4ヶ月が経った先月7月、震災後はじめて、福島を訪れる機会を得ました。来月9月には東京にて、福島支援シンポジウムを開催します。プレマ基金を通じてご縁を結んだ方々のお話のなかから、今回のレポートでは特に農の分野に関して、1年が過ぎた今だからこそ起こっている事態や現状お伝えしたいと思います。何かしたい、そう想ってくださっている方々のご参考となれば幸いです。 |
NPO法人福島県有機農業ネットワーク/二本松農園
福島県二本松市にある二本松農園。プレマ基金の活動でもご紹介したことのある、ご縁の深い場所のひとつです。農園を営む齋藤登さんは、NPO法人福島県有機農業ネットワークの事務局長でもあります。訪れたこの日は、理事長である菅野正寿さんにもお話を聞くことができました。菅野さんは3・11震災後、農業に加え執筆や講演などの活動を積極的にこなされています。
お二人によると、支援の気運が高まっていた昨年に比べ、今年は状況が苦しくなっており、常に心のどこかに重い気持ちがあるとのことです。正確な測定をして放射性物質が不検出であっても、福島県産というだけで避けられてしまう、数値より産地という状況が県外でも県内でも同様にあるそうです。地元の人ですら食べないものを余所の人が食べてくれるわけがない、だから本当のことを伝え、分かってもらう努力をし続けるしかないと、齋藤さんや菅野さんをはじめ、仲間の農家さんたちはさまざまに発信を続けられています。
実際に農園の様子も見せていただきました。水田は除染作業が済み、青々と彩られていますが、植え付けをやめてしまった田んぼも存在しています。特に有機栽培の田畑においては土作りが要であり、その土をはいでしまえば一からのやり直し、除染作業そのもの以上に大変なことです。しかも苦労して育てた作物が本当に売れるのか不安は拭えません。それでも、二本松農園では自主的に除染作業を始めています。何をどのようにすれば数値が下がるのか、そのモデルを作っていきたいと、休みのない作業が続いています。
7月下旬、畑では主にキュウリが育てられており、その他の野菜も少しずつ種類を増やしています。苦しさの一方で、販売を待っていてくださる方の存在も確かにあるそうです。本当にこのときいただいたキュウリは絶品。ファンになる気持ちが分かります。
二本松農園では、ここにしかない畑、ここだから味わえる野菜を感じます。放射性物質が問題になる以前、農業という分野に問題がなかったわけではありません。たとえば後継者不足、農薬・化学肥料のこと、せっかく育てた野菜も安く買いたたかれ生活が難しい…そういった問題は切り離された別のことではなく、今の状況と地続きにあり、だからこそ今後の農業を変えていくためのきかっけが今にあるのかもしれません。
山間に広がる水田と畑 | キュウリが毎日ぐんぐんと成長中 |
NPO法人ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会
福島県二本松市にある、NPO法人ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会。プレマ基金でも深いお付き合いのある、案内人の海老沢さんにお話を聞きました。ここには、プレマ基金の支援として、ベクレルモニターLB200とシンチレーター測定器AT1320Aが設置され、地元でとれるさまざまな食品の放射線量測定が行われています。
3・11震災後、約1年と4ヶ月が経った今の状況を改めてお訊きしたところ、震災後1年目は、何とかしようとがむしゃらに前を向いて頑張れたそうですが、2年目に入り、のらりくらりと具体的な施策がされない状況が続き、目標の見えないなかでじわじわと真綿で絞められるような苦しさがあるとのこと。しかしそんな状況下でも、新たな動きは着実に進められています。
食品の放射線量測定では、最近では、不検出はもとより、0ベクレルというものが大半を占めるようになってきたそうです。測定を重ねデータを蓄積することで、どのような環境で値が高くなるのかなどが分かりはじめ、対策も立てやすくなっているそうです。食品だけでなく、内部被爆の検査も、幅広い年代を対象に行われはじめています。高齢の方は、私はもういいとなりがちだそうですが、畑仕事をしたり地元の野菜を食べたりする機会の多い層の測定は、将来に渡る影響を知ることにつながります。結果としては、心配されたほどの数値が出ることはなかったそうです。不安をそのままにするのではなく、その実体を見極めた上で対策を立てることの重要性を感じました。
放射性物質に関する問題はもちろん、その他諸々の問題を考えたときに、今だからこそ有機農作物の力を見直すことも改めて重要だと感じられました。「有機」といってもさまざまで、ブームのなかで、肥料の作り方や使い方など有機だからといって一概に良いとはいない現実もあります。けれど有機栽培の原点は、作物自体の生命力を強くすることです。海老沢さんいわく、それは作物の「生命をいただく」こと。適切に育てられた有機農作物は、おいしさにあふれ、もちも良いものです。それは作物自体の生命力が強いということであり、土の状態など環境が自然本来の形で調和しているということ。そこに放射性物質への対策も期待されています。
不安や、さまざまな思惑による報道、それらひとつひとつに反応してしまうのは、もぐらたたきのようなものできりがない…だから、ゆうきの里東和で行われていることは、細やかな測定であったり、丁寧な有機栽培であったり、難しいことではなくシンプルなことです。答えはすでに出ているのだから、やるかやらないかだと、その姿勢に覚悟が表れています。状況に流されるのではなく自分で決めて行動することで、先の見えない不安が、具体的な目的に変わっていくようです。
測定室の様子 正式名称では覚えにくいからと 野菜を測る「野菜ちゃん」 お米を測る「お米ちゃん」と命名(笑) |
ゆうきの里の事務所がある 「道の駅とうわ」 野菜をはじめ加工品や 工芸品などがならんでいます |
福島支援シンポジウム「 それでもなお、前を向く。」 (東京開催) 福島と日本のリーダーが、熱く未来を語ります。 ■日時:2012年9月26日(水)14:00~19:00 (開場13:45) |