5月や6月の急な夏日のような瞬間や、朝晩の冷え込み。そんな寒暖差からか、手足のほてりを自覚する方や、触れると熱いと感じる方が急増している。猛暑を前にした時期に、夜は保冷剤を握っていないと眠れないという患者さんもいるほどだ。手足のほてりに用いられる漢方薬で少し楽になる方もいるが、今年は例年より早く困り出している方が目立つ。
また、手のひらが異常に赤く、印を押したような「手掌紅斑」という状態の方もいる。西洋医学的には肝機能やホルモンの異常、皮膚疾患などが疑われ、原因を突き止めるための検査がおこなわれる。しかし、はっきりとした原因が見当たらないのに、赤く、ほてっているという患者さんも少なくない。
暑い季節に向けて、汗をかいて体温を下げる「暑熱順化」は重要だ。しかし、身体がゆっくりと季節に順応しようとするよりも早く気候が変わってしまうと、身体は追いつけず、ほてりへと繋がってしまう。
漢方的な見立てでは、手のほてりは「肺」の、足のほてりは「腎・膀胱」の経絡の乱れが影響していることが多い。今、肺が過剰な熱を持ち、コントロールを失っている「熱の極まった状態」の患者さんが非常に多いのだ。
心臓を守る、巧妙な「ラジエーター」
ここで、この「熱が極まった状態」について少し説明したい。
私たちの心臓は、最期まで必死に生きようと休みなく動き続けている。どんな機械もそうだが、動き続けるモーターには熱を逃す装置や、壊れないための防御機能が必要だ。以前、デスクトップPCがうまく起動しなくなったことがある。原因を調べると経年劣化だけでなく、溜まりすぎたホコリが冷却機能を阻害し、熱を逃がせなくなっていた。壊れてしまう前に作動を制限する、PCの防御機能が働いていたのだ。
私たちの心臓も同様に、オーバーヒートを防ぐ巧妙な仕組みを持っている。西洋医学の教育では熱の概念として教わることは少ないが、東洋医学では、心臓を包む「心包」、そしてその外側にある「肺」が、全身のラジエーターとして冷やす機能を備えていると考えている。つまり、ほてりを感じるということは、その肺というラジエーターが熱をコントロールできなくなっている状態なのだ。
食物を消化吸収し、最後に大腸で便として排泄する流れにおいて、不要な熱は外へ出ていく。排便がスムーズなら熱バランスは保たれるが、便秘や下痢、お腹の張りといった症状は、大腸の熱バランスが崩れているサインだ。漢方では大腸と肺は深く関連している。腑(大腸など)の困りごとは、やがて臓(肺など)へ影響を及ぼす。生きるうえで必要な熱を超えて身体がオーバーヒート状態になると、「肺(冷やす装置)」がスムーズに働かなくなり、熱過剰状態が顕著になる。これこそが、患者さんの困りごとの本質といえる。
脈は嘘をつかない
脈診で五臓六腑の状態を診ることは鍼灸治療の基本だが、脈診自体を信じない医師も現実に多い。しかし、実際に患者さんの脈に触れさせていただくと、「脈は嘘をつかない」と確信せざるを得ない。今の自分がどのくらい込み入った状態か、どこに困りごとがあるのか、脈は驚くほど詳細に語ってくれる。
ただ、対症療法が長く続くと、その脈のサインが読み取りにくくなることもある。こうして自身の心身を緻密に測り知る術が、今の医学では片隅に追いやられているのは残念でならない。自覚症状に素直に耳を傾け、聴覚、嗅覚、視覚を使い、脈に触れ、五感をフル稼働させて、困りごとの正体を地道に模索し続けていきたい。
