ときどき診せてもらう中国出身の方がいる。一昨年の夏の養生として、太陽を背中に浴びることをされていた。私もやってみたいと思いながら夏を迎えた。しかし、東京の夏、背中を出して太陽を浴びるタイミングと場所は思った以上になかったのである。自然の恩恵を受けることが難しい場所で生活していることに、悲しいほどの愕然とした気持ちになった。
住まいのベランダは、高層マンションに遮られ、背中を出す姿は恥ずかしく、照り返しや室外機の熱風で気持ちよさよりも苦痛になりそうで断念した。実家でも習慣化できず気持ちだけで、真夏の猛暑を過ごしてしまった。
今気づいたのだが、太陽を背中に浴びたいという欲求を抱えたまま、この数年を過ごしてきたようだ。昨年の夏の終わりから秋の体調不良のなかで、心身の養生や、これからの生き方をもやもやと考えた。
時折、ここでも紹介している精神科医の神田橋條治先生の『心身養生のコツ』を再読し、太陽との付きあいで、ひとつのヒントを見つけた。そのなかに、『日の光は「陽」であり、月の光は「陰」です。体の陽の面、すなわち背中側に日の光を当てるのは心身にとって「気持ちがいい」し、お腹側に月の光を当てるのも「気持ちがいい」のです。(中略)うつ状態のときは、陽のエネルギーが不足しているのを陽を賦活して元気にするか、源である陰のエネルギーが目減りしているから陽を賦活すると生命エネルギー全体の枯渇をきたすので、陰を補うを目標にするか、見定めが、治療においても養生においても要点です。』と記されている。
六気と養生の要点
漢方では、自然界の変化は、そこに生きるものに絶え間なく影響を与えると考えられている。この自然界の変化を活かせば養生に役立つが、季節による六気(風、寒、暑、湿、燥、火)が体の適応能力を超えると、発病の原因となる。このときの六気を、風邪、寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪(熱邪)と呼び、単独で疾病を起こす場合と、複数が連動して起こすといわれている。
今は太陽の光を背中に、月の光を腹に当てるイメージを養生に取り入れ、夜は月を見上げるようになった。夏にはあんなに苦悩した太陽だったが、晩秋から冬の晴れ間に昇る日の光には、生きているしあわせを感じる。私の母は、太陽の日の光を浴びた布団の匂いがとても好きだ。太陽の恵みを分け隔てなくだれでも得られることに、頭が下がる思いになる。
また、日の出を拝むことについても、神田橋先生はこんな風にも書いている。『太陽の光は陰陽の両要素を持っています。日の出のときの日の光は陰のエネルギーを送ってきますので、古来、人は朝日に腹側をむけて拝みます。日中の太陽光は陽の要素が増えるので、背中に当てるとからだの陽のエネルギーが賦活されます(中略)衰弱して陰のエネルギーが乏しくなっている人は日光浴で陰のエネルギーがさらに衰弱します。太陽が頭を覗かせる前から拝みはじめ、全体が姿を現した瞬間にやめましょう。陰の気を補給するには月を眺める(陰である腹側に月の陰の気を当てる)が有効です。』
水平線から昇る太陽の光は、陰陽あわせ持つエネルギーがあると、どこかで聞いた記憶があるが、これらの養生法は、自分の心身にとても腑に落ちたのである。
高校生のとき、毎朝6時10分の電車で2時間の通学をしていた。冬には電車の中で、海から昇ってくる太陽の日の光を眺めていたのだが、今思えば、中学生のとき、病弱だった自分が少しずつ元気になる一助になったのかもしれない。今年は、陰陽あわせもつ日の出の太陽に手を合わせ、腹や背で日の光を浴びることが、何度かできるといいなと思う。
