むくみは、多くの方が悩まされている身近な不調の一つである。私自身もむくみやすい体質であり、日頃からさまざまな工夫をしている。春先、強い冷たい風にあたった後に目の周囲に蕁麻疹が現れ、その後まぶたにむくみ感が残った経験がある。漢方では、皮膚のトラブルは肺や大腸と関連があるとされており、これは体からのサインだったのかもしれない。かつて春風にあたると顔などがむくんだ経験もあり、自身の体質を見つめ直すきっかけとなった出来事である。
漢方では、体内の水の流れを調整する機能が低下し、水が滞る状態を「水滞」と捉える。体の水の巡りには、腎臓や膀胱、脾(膵臓)、肺や心臓の経絡が関与していると考えられている。例えば、両足の強いむくみに息苦しさを伴い、さらに目の周囲にもむくみが認められる場合は、心臓の機能低下による心不全の可能性も考慮される。一方、顔だけの一時的なむくみであれば、アレルギー反応によるクインケ浮腫と診断されることもある。
水滞は、むくみだけでなく、めまいや天候の変化に伴う頭痛など、さまざまな不調の原因となる。特に湿度が高くなるこれからの時期は、体が水分をうまく排出できず、水滞による症状を感じやすくなる。
体が水滞になっているかを知るサインの一つに、汗と尿の状態がある。気持ちよく汗をかけるか、排尿がスムーズかを確認してほしい。水分の摂取と排出のバランスが崩れると、むくみが生じやすくなる。
また、脱水予防には、細胞内に適切に水分を引き込むための適度な塩分も重要である。熱中症の際に生理食塩水を点滴するのは、水分だけでなく電解質を補給することで、水だけを摂った場合に細胞間に水が溜まりやすくなる状態(むくみ)を防ぎ、細胞内の脱水を改善するためである。水と塩分のバランスは、体内の水の巡りを整えるうえで重要である。
めまいも水滞と関連が深い症状の一つである。一般的な原因が見当たらないにも関わらずつらいめまいに悩まされる方がいるが、漢方的な視点では、このようなめまいも水滞と捉えることがあり、経絡でみると膵臓や肝臓が機能低下しているとも考えられる。
低気圧や湿った空気の前線が近づくと、頭痛や頭重感に悩まされる方も少なくない。「天気頭痛」とも呼ばれるこのような症状には、漢方薬の五苓散が有効な場合がある。五苓散は、茯苓、沢瀉、白朮、猪苓、そして桂皮という生薬から構成されている。五苓散の主要な働きは、体内の余分な水分を尿として排出し、水滞を改善することである。特に桂皮は体を温め、水分の巡りを助ける働きがあるとされる。これは、上に上がる気を下に降ろし、滞った「気」をスムーズに巡らせて、水分代謝を促進することにつながる。水捌けを良くする生薬と温める生薬の組み合わせが、湿気や冷えによる水滞に効果的に働くのである。五苓散の効果を実感するには、ある程度の量を服用することが重要であることも知られている。私自身も、湿度の多い時期に五苓散が有効であることを実感している。
水滞を改善するためには、胃腸の消化吸収力を高めることも大切である。湿度が高い日本の風土では、古くから苦味のある健胃薬が用いられてきた。ゲンノショウコやオウバクなどの生薬は、胃腸の働きを助け、湿気による消化不良を和らげるのに役立つ。その土地の植生や風土が人々の健康を支える仕組み、そしてそれを活かそうとした先人たちの知恵には、深い感謝の念を抱かずにはいられない。
むくみ、めまい、天気頭痛など、体に水が滞ることで生じる不調はさまざまである。自身の体からのサインに耳を傾け、体内の水の巡りを整えるケアを意識することが、健やかに過ごすための大切な一歩となるであろう。