Tコリン・キャンベル博士は2005年に出版した『THE CHINA STUDY』でPBWF(プラントベースホールフード:植物性の食材をなるべく精製加工することなく食べる)の食事法による健康効果を示しました。キャンベル博士はこれでアメリカ人が健康を取り戻すと考えましたが、期待したような効果が得られず、真実も広まりませんでした。博士はその理由を次の著書『WHOLE』で考察しています。
理由の一つ目は、人々の動物性タンパク質崇拝です。PBWFは私たちが何十年も常識としてきたことからかけ離れているため、動物性タンパク質が不健康な食品であると認めることが極めて難しくなっていると説明しています。日本では1954年に制定され、以降70年以上改正されていない「学校給食法」により、牛乳の提供が義務付けられています。高齢者はタンパク質が不足しがちになるので肉を食べなければいけないと信じて説くのはアメリカも日本も同じです。私の患者様には「牛はタンパク質やカルシウムを含む緑の葉っぱをたくさん食べているため、牛乳や牛肉にタンパク質やカルシウムが含まれる。間の牛を飛ばして、栄養豊富な植物性食材を食べれば、これらの栄養素を不足なく摂取することができ、健康に悪影響を与える余分な脂質やコレステロールを一緒に摂取しなくて済む」と説明しています。面倒な計算をしなくても植物性の食材をPBWFで食べれば必要な栄養素が摂取できることを自然界が証明してくれています。
二つ目は、物事を部分で見るリダクショニズム(還元主義:複雑な事象をより単純な要素や原則に還元して説明しようとする考え方)パラダイムです。人の体は、組織や臓器の寄せ集めではなく、相互に絡み合う全体的なシステムです。病気が一つの原因によって引き起こされると考え、一つの答え(=薬)を見つけ解決しようとする医療ではリダクショニズムパラダイムから抜け出せません。
三つ目は、産業に支配された利益志向です。リダクショニズムでは一つの事象に的を絞って課題とし、結果を素早く導き出して公式な見解とする研究が評価され予算がつきます。医療システムも利益志向の上に成り立っています。しかし私たちの体が築き上げ、維持してきた健康は、何百万年にもおよぶ成果です。それは単なる個別の細胞の進化ではなく、組織や臓器、体全体にとどまらず、食物網や自然全体の一部としての進化の結果であり、リダクショニズムの思考で簡単に評価できるものではありません。
私は2020年に『WHOLE』を監訳出版しました。この本を多くの日本人が読んでくれていれば先のパンデミックの混沌とした5年間は違うものになったかもしれません。国や組織から与えられた政策や決まりに従っているばかりでは、リダクショニズムに支配された社会は変わりません。感染症はワクチンやウイルスの遺伝子に働きかける薬で対処するより、食事や生活によって免疫を高めるホーリズム(全体主義:あるシステムや対象全体は、その部分の単純な総和よりも大きい、全体を部分や要素に還元することはできないとする考え方)で対抗するべきです。
当たり前に流通している商品の背景を考えて選択(CHOICE)する。そうすれば悪いものは売れなくなり、良いものの需要が増すはずです。そして組織や自身の利己を考える政治家を見極め国民のために働いてくれる候補者を選ぶ。その積み重ねが上から与えられるトップダウンではなく、皆が選択し物事を動かすボトムアップを機能させ、リダクショニズムパラダイムから抜け出す手立てではないでしょうか。
連載は今回が最終回です。皆が当たり前にしていることもまず自分で考え「CHOICEすること」が大切です。