鉄は酸素の運搬と貯蔵に重要なミネラルです。しかし、この栄養素の欠乏は国や地域を問わずよく見られます。鉄欠乏は発達遅延、行動障害、疲労、集中力低下、学習障害、貧血、さらには回復不可能な認知異常を引き起こす可能性があるため、特に乳幼児には注意が必要です。アメリカではすべての子どもにスクリーニング検査が推奨されていますが、乳児の鉄欠乏性貧血の有病率は3~7%のままです。
植物性の食事では、鉄分が十分に摂取できないという意見がありますが、ヴィーガンやベジタリアンの鉄欠乏性貧血の割合は、普通の食事をする人と同程度で、意識的に鉄を含む食事を摂る必要があるのは同じであり、さらに乳製品には、左のような問題があります。
・鉄含有量が少ないにもかかわらずカロリー源となるため、相対的に他の健康的な食品の摂取量が少なくなり、結果的に鉄の量が不足する
・他の食品からの鉄の吸収を阻害する
・腸内で微小出血を引き起こし、鉄を失わせる
これらは鉄欠乏症を引き起こす要因があるため、乳製品を摂取しないPBWF(プラントべースホールフード:植物性の食品をなるべく精製加工することなく食べる)の食事をする子どもは、一般の子どもたちより有利です。
乳児から2歳までの注意点
満期出産の赤ちゃんは、お母さんのお腹にいる間に十分な鉄を蓄えています。しかし、4~6ヶ月ごろには母乳から十分な鉄を供給することが難しくなってきます。母乳を与えているお母さんは、意識的に鉄を含む食品を食べることを心がけてください。離乳食から栄養を摂る割合が増えるころには、さらに鉄の必要量が増すので、離乳食にも鉄を含む食品を積極的に摂り入れるようにしてください。お母さんの栄養が不足している場合や、離乳食で鉄を含む食品を摂取できていない場合、さらに鉄欠乏のリスクが高い早産児は、栄養補助食品やサプリメントの使用を検討します。
鉄を摂るためにすること
まずは緑の葉野菜や豆類、種子類、発芽穀物、レンズ豆など鉄分を多く含む食品や栄養強化食品を十分摂取します。しかし、発芽穀物、豆類、種子類にはミネラルの吸収を阻害する可能性があるフィチン酸が含まれます。フィチン酸は浸水によって減少するため、十分に浸水してから調理してください。
鉄とビタミンCを一緒に摂ることで、鉄の吸収が最大5倍促進されることがわかっていますので、鉄を含む食品を食べるときには、トマトやベリー類、パプリカ、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、ジャガイモ、ほうれん草などのビタミンCを多く含む食品を一緒に食べるようにします。
鉄欠乏を起こす要因として、
・妊娠や授乳期間の母親の栄養状態がよくなかった
・未熟児あるいは低出生体重児
・乳幼児期の摂食不足や鉄を含む食品の不足、発育不良が見られたのに栄養強化食品を使用しなかった
・離乳を牛乳でおこなった
・鉛への曝露
などが挙げられます。
アメリカ小児科学会は、すべての子どもが1歳の時点で鉄欠乏性貧血の検査を推奨しています。子どもがなんらかのリスクファクターを有している場合には、追加検査が必要になることがあります。しかし、PBWFの食事を実践しているという理由だけでは追加検査は必要になりません。
子どものためのPBWFの食生活について、概論から妊娠中と授乳期、乳時期、幼児期の各ステージについて、特に質問が多い乳製品への対応、微量栄養素とサプリメントについて書いてきました。次号からはよくある質問と健康的に食べることができる大人に育てるコツをお伝えします。