長くITの世界を見てきて、ひとつ気になることがあります。それは技術の進み方と、世間の人の感じ方の間にある「時間のズレ」です。現場にいると当たり前に思える変化も、世間ではゆっくりに見えていることが多いのです。
最近はAIの話題で持ちきりです。「このサービスが一番だ」や、「仕事が奪われることはない」といった声もよく聞きます。年配の方にとっては繰り返されるデジャブ(既視感)ではないでしょうか。新しい技術が出てくるたびに、評価が極端に振れるのです。ただ、冷静に見ると今はまだ途中段階で、半年もすれば様子が変わっているかもしれません。
少し昔を振り返ると、似たようなことがたくさんありました。たとえば自動翻訳です。以前は文法を細かく分析する方法が主流で、長年、その方法が最先端とされていました。ところがGoogleが新しいやり方として、文章をまるごと統計的に処理する方法を採用し、翻訳精度が向上すると、一気に流れが変わりました。別の例はスマートフォンの普及です。「ガラケーとどっちがいいか」「いずれはスマホが増える」といわれていたものが、わずか数年でガラケーは姿を消していきました。インターネットも同じです。出始めのころは「現実とは別の世界」「インターネットでお店なんて」と考える人が多数いました。しかし、今では買い物でも仕事でも欠かせないものです。当時「様子を見よう」と考えていたお店の多くは、後から追いつくことが極めて困難になりました。広告宣伝の世界も激変しました。すでに数年前からオールドメディアよりもインターネット広告に投じられる金額のほうが多くなっています。
自動翻訳、スマートフォン、インターネットなどの前例から見えてくる法則は、世の中を変える技術は、多くの人が思うよりもずっと速く広がるということです。特に「便利で、しかも安くなる」ものは、一気に普及し、世の中はそれを前提とします。
「選ぶ」より「触れる」
AIはまさにその条件を持っています。時間も手間も大きく減らせるので、使える場所ではどんどん使われます。前回も書きましたが、「使うか使わないかを自分が選べる」と考えてはいけません。自分が選ばなくても周囲で使われます。これから5年以内に学歴のあり方や働き方は激変していきます。では、どう向き合えばいいのでしょうか。難しく考える必要はなく、まずは触れてみることです。使うかどうかを決める前に、どんなものか知っておく。それだけでも大きな違いになります。ChatGPTやGoogle Geminiに隣の家の人に話すように雑談を仕掛けてみてください。話が広がります。
また、学び方も変わってきました。昔は本を読んだり、人に教わったりすることが中心でした。今も学校に行く人は多数います。しかし、今すぐAIを相手に会話しながら学ぶことができます。わからないことをその場で聞けるので、理解が早くなります。もちろん、間違いが含まれることもありますが、それは人に教わる場合でも同じです。いくつかの情報を見比べながら使えば、十分に役立ちます。
私自身、長い間心がけてきたことがあります。それは「実際に手を動かし続ける」ことです。本や雑誌の知識だけでなく少しでも体験しておくと、変化に向き合いやすくなります。すべてを知る必要はありません。興味を持ったことを少しずつ試していく、それで十分です。
技術の進歩はこれからも続きます。そして、そのスピードはますます速くなるでしょう。だからこそ、遠くから眺めて「わからない」とため息をつくだけでなく少し近づいてみるのです。無理のない範囲で新しいものに触れてみる。それが、変化の時代を穏やかに乗り切る一つの方法だと思います。
