ながれるようにととのえる
身体の内なる声を味方につけて、生きる力をととのえる内科医、鍼灸をおこなう漢方医のお話
やくも診療所 院長・医師
眼科医を経て内科医、鍼灸をおこなう漢方専門医。漢方や鍼灸、生活の工夫や養生で、生来持っている生きる力をととのえ、身体との内なる対話から心地よさを感じられる診療と診療所を都会のオアシスにすることを目指す。
やくも診療所/東京都港区南麻布4-13-7 4階
私の暑さへの作戦
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東京の夏の暑さと湿度は、この10年で、生きるのが苦しいと感じるほどに厳しさを増している。そんな過酷な夏を乗り切るために、私にとってなくてはならない相棒がある。今年は薄荷とキャベツに加え、新たに菊花のお茶を試しながら、この夏を過ごしてみようと思っている。
まず、薄荷についてだ。日本薄荷は感冒や咽頭痛、皮膚のかゆみなどに用いられ、漢方では、肝気の鬱滞を解き、自律神経の乱れにも有効とされる。自然界の植物のなかでは、特にメントール含有量が多いという。ヨーロッパ原産の西洋薄荷(ペパーミント)や南米原産の緑薄荷(スペアミント)など、さまざまな種類があるなかで、凝り性の私は多くの薄荷を試してきた。そのなかで、この苦しい暑さを少しでも楽にしてくれると感じたのが、熊の印(ペパーミント商会)の西洋薄荷である。これは、他よりも爽快感が強く、暑いときに首筋に吹きかけたり、塗ったりするだけで、なんとも心地よいのだ。夜は、冬よりもやや低めに設定した湯船に、薄荷の結晶を5粒ほど入れる。以前、湯船に一掴み入れたら、びっくりするほどスースーしすぎて、慌てて温度を上げたが、かえって困惑した経験がある。どうか皆さんも、ご自身の心地よい量を見つけて、この夏の暑さ対策に役立ててもらえたら嬉しい限りである。
次に、キャベツの葉っぱ療法について触れたい。以前この療法を目にしたとき、正直なところ半信半疑だった。西洋医学の教育を受けてきた自分には、キャベツが治療的に役立つなど、ありえないことだと頭が疑ったのだ。しかし、熱いもので口内を火傷した際、藁にもすがる気持ちで、冷蔵庫のキャベツの葉を熱感のある部位や頭部に巻いて眠ってみた。翌朝、驚くほど楽になっていたのだ。体内にこもった熱が、キャベツの葉の心地よい湿気と冷気と呼応し、蒸発・蒸散してくれたかのようだった。昨夏、母が夏風邪で苦しんでいたときも、このキャベツの葉が助けになった。白菜も試したが、キャベツのほうが効果を感じやすく、体内の熱を穏やかに吸収してくれるような感覚が、優しく作用するのかもしれない。
鹿児島で介護施設『いろ葉』を運営されている中迎聡子さんの著書『最強のケアチームをつくる』を読んだ際、キャベツのクーリングについての記述を見つけた。そこには「キャベツのクーリングは、今夜逝かれるかもしれないという人が熱を出した場面で試みた方法です。ギリギリの血圧の状態だったが、薬で抑えるのではなく、熱を出しきってもらうことが大事です。でも、体はしんどいのでジワーッとゆっくり熱を下げようとしました。冷蔵庫で冷やしたキャベツの外皮をむいて、頭に当てる。(省略)熱が下がっても、無理に下げていないので苦しくない」とあった。これを読み、キャベツ仲間がいる喜びを勝手に感じた。元々冷え性の人や、極度の冷たさに参ってしまう人にとっても、この方法は、とても優しい手当てになるように思う。
そして、今年新たに私の夏の相棒に加えるのが菊花のお茶である。中国では、夏になると菊のお茶を積極的に飲む文化があるという。日本漢方では、菊花は目を明らかにする生薬として用いられてきたため、夏の養生に飲むという発想は私にはまったくなかった。しかし、中国の文化や習慣を教えてくれる方からその話を聞き、俄然興味が湧いたのである。産地名で呼ばれることもあり、例えば亳菊花は視力改善作用が高く、抗菊花は頭痛や目の充血に良いとされる。また、野菊花は清熱解毒薬として、肺炎や皮膚の化膿症などに用いられるという。夏を過ぎると「もう飲むものではない」と聞かされ、生活のなかで季節に順応したセルフケア文化の奥深さに感銘を受けた。そんな背景から、今年の夏は、この菊の花を煮出して飲みながら、東京の厳しい暑さを乗り切ってみようと思っている。