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中川信男の多事争論

「多事争論」とは……福沢諭吉の言葉。 多数に飲み込まれない少数意見の存在が、 自由に生きるための唯一の道であることを示す

プレマ株式会社 代表取締役
ジェラティエーレ

中川信男 (なかがわ のぶお)

京都市生まれ。
文書で確認できる限り400年以上続く家系の長男。
20代は山や武道、インドや東南アジア諸国で修行。
3人の介護、5人の子育てを通じ東西の自然療法に親しむも、最新科学と医学の進化も否定せず、太古の叡智と近現代の知見、技術革新のバランスの取れた融合を目指す。1999年プレマ事務所設立、現プレマ株式会社代表取締役。保守的に見えて新しいもの好きな「ずぶずぶの京都人」。

山椒は小粒でピリリと辛いの考察

投稿日:

プレマルシェという飲食店を2017年にスタートして丸5年が経過しました。それまでの私は飲食店を経営するどころか、バイトをしたこともなく、社内に経験者もいないなかでほんとうにオーブンできるのかという不安はありましたが、なんとかなるものです。一度決めたら猪突猛進という普段は厄介な性格も功を奏して、昼夜分かたずジェラートのレシピを書いては試作、味見しては修正を繰り返して無事にオープンまでこぎ着けました。当初は20種類からのスタートでしたが、今では気分が乗りさえすればいくらでもレシピは書くことができるようになり、試作後に出てくる結果もレシピの段階でかなり精度の高い予測ができるようになったので、新しい素材の組み合わせだけ思いつけば、あとは自動操縦のようにレシピが仕上がります。そこから1年が経過しないうちに「ジェラートだけじゃ、ほんとうに伝えたいことが伝えられないから、食事を出す店もやる」と決め、またなにもないところからレシピを組み始めました。これも、最初はまったく経験のないことなので疲労困憊で死ぬかと思いましたが、パターンさえ認識してしまえばさほど難しいことでもなく、暇さえあればつい新しいレシピを思いついてしまい、かといって店で無数に料理を出すわけにもいかず、ほとんどは封印したままになっています。製菓や料理の世界は修業がすべてといわれるなかで、修業どころかたまに厨房に立つだけでいろいろ閃いてしまうのには秘密があります。
 

レシピは表計算

「味を作るのは、計算ではできない」と思われることでしょう。しかし、私は幸いなことに最初の菓子作りを日本ではなくイタリアで勉強したので、極めて合理的に学ぶことができました。日本では「師匠を見て学べ」、とか「守破離が大事」などといわれますが、プレマ株式会社全体の経営が重要な責務である私にはその時間はありません。イタリアでは、あらゆる事柄を数字に落とし込み、全体のバランスを維持しながら、個別のパラメーターを動かす方法論で製菓を学びます。これを繰り返して、ここを動かしたらなにが起きるかということを熟知してしまえば、比較的簡単に望む結果が得られるようになります。もちろん、包丁さばきや盛り付けなど、技術的な事柄は経験がものをいうのでしょうけれど、私にはその時間も機会もありませんから、基本構造を創り出すためには脳内で組み上げてしまうことが重要です。ゆえに、私はレシピ組の作業はすべて表計算ソフト上で先に片付けてしまい、それに基づいて試作するということを繰り返す方法をとります。調理をしながらメモをして、あとでレシピ表にまとめるという通常のやり方とは真逆です。あとは、科学的に書かれた料理本を斜め読みして、どの素材はどのような調理で、どのような変化を遂げるのかということを日頃から脳内に蓄積、必要なタイミングでそれを引き出します。さらに、従来から学んできたマクロビオティック的なエネルギー変化や、神聖幾何学による組み立て、ヒーリングの技法などをちりばめると、相応のものが仕上がってきます。健康食品や生活雑貨類の設計もおなじようなやり方で取り組めるので、脳の使い方ひとつでいくらでも新しいものは作り出せるのです。こんな話しをしても「あーそうですか、ご立派なことで」くらいの反応しか得られないことは承知していますので、ほんとうに大切なことをお教えします。
 

微量のものや繊細なものほど、使いこなせ

米を炊くことを考えましょう。米の質が重要なのは誰でもわかりますが、それが最も重要な要素であるとは私は思っていません。例えばこの米が玄米であれば、塩選定や微妙な量、投入タイミングや、水の温度変化、性質、米研ぎで回す方向などが重要です。火で調理するのであれば火加減(つまり、温度変化のスピード)、電気で調理するなら電気の質が重要です。ジェラートなら、メインになる素材がおいしいのはもちろん大切ですが、それ以上に乳化になにを使うのか、どの温度でどのような電気でそれをおこなうのか、氷結晶の安定にはなにを使うのか、粘度を出すためになにを使うのか、この精査と使い方が重要になってきます。カレーなら、スパイスの加減と投入のタイミング、そのときなにと混ぜ合わせるのかが味を決めます。つまり、総重量が極めて少ないものや、水、温度、回転など微妙な事柄こそ重要で、比較的重量の多いものの選定にはさほど神経質になる必要がないのです。プレマルシェでこの微量素材のコアとなっているのが、バオバブ、イヌリン、ミネラル、(特殊な)水、塩、各種調味料などで、これらの使い方や選定ひとつでまったく世間とは別物をつくりだすことができます。もちろん場の調整や遠赤外線を与えること、電気に変化を与えるなどほかの要素も多数ありますが、つい、量が多いものに目がいきがちなところを、あえて微量の世界、繊細の世界に焦点をあてると健康効果が高く、味も未知のものができあがることを知っていただきたいと思っています。なぜなら、人間や動植物もまた、微量の世界、繊細の世界からこそ大きな影響を受けているからなのです。

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山椒は小粒でピリリと辛いの考察

- 中川信男の多事争論 - 2022年6月発刊 vol.177

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