近年「竹害」と疎まれがちな竹に光を当て、放置竹林を整備しながら、竹の優れた特性を生かしたものづくりに取り組むエシカルバンブー。飲めるほど安全な洗剤や、化学薬品を使わずに作る竹繊維のタオルなど、人や環境に負荷をかけない製品はどのように生まれたのでしょうか。竹と共に生きる、田澤氏に話を伺いました。
「地域でお世話になっているおじいちゃん、おばあちゃん達にたくさん感謝を伝えたい」と話す田澤さん。この写真は、何度撮っても目をつむってしまう可愛らしいおばあちゃんと一緒に写ったお気に入りの一枚
高校生のころから、いずれ起業すると決めていました。障がいを持つ兄を見ていて、自分の会社でどんな人も働きやすい職場を作りたいと考えていたんです。高校卒業後はいくつかの職を経てマーケティングの仕事に就きました。
あるとき、電力会社の方から「放置竹林の竹が、送電線に絡むので困っている」と聞いて、一緒に竹繊維でタオルを作るプロジェクトを立ち上げました。千葉県の現場を初めて見たときは、あまりの状況に衝撃を受けました。竹林の所有者に話を聞くと、「また竹ですか」と、うんざりした表情で。これまで数々のプロジェクトを手伝ってきたけど、どれも継続しなかった。また同じでしょと、失望されていたんです。さらに役所などでも、「竹害をなくすには、竹をやっつけるしかないんです」と、竹がいかにも悪者だという言い方をされる。本当にそうかな?と違和感を持ったのと同時に、始めるからには必ず竹事業を継続させなければと思いました。
竹は、その美しさと機能性から、お正月の門松や日用品などとして、古くから日本人に重宝されてきました。それが、いつしか邪魔者扱いされるようになってしまった。私はまず竹のことをとことん好きになることにしました。好きな人のことをもっと知りたくなるのと同じで、竹も深く調べるほどに、成長の速さや繁殖力、抗菌性、消臭性など、有益な資源としてさまざまな可能性が見えてきたのです。現在の日用品に竹を活用していくと考えたとき、タオルは竹に最適でした。とはいえ、日本の竹で作るタオルは世界初。化学薬品や化学繊維を一切使わないと決めてあらゆる手段を検討しましたが、国内での製造が難しく海外での製造工場に行きつきました。文化や言葉の違いを乗り越えながら2年半かけてようやく完成したときは、思いはちゃんと伝わるんだなと感激しました。私にとって、現地のスタッフ達は家族のような存在。彼らを守ることが私が仕事を続けていく原動力になっています。
その後、エシカルバンブーを立ち上げました。社名は、ニューヨークを訪れたときに、スーパーの一角で「エシカル」の文字を見つけて。店の人に意味を聞いたら、「人はいろんなものを搾取し過ぎている。ほかの生命のおかげで生きているんだから、その存在をもっと尊重しないといけない」と言われてハッとしたことから。そのとき、エシカルを看板にして、人も生物も地域もすべてを尊重する事業を竹でやろうと決心しました。当時はまだSDGsも知られていない時代。倫理的という言葉を掲げることにすごいプレッシャーを感じましたが、それぐらいの覚悟がなければ本当に環境にいいものは作れない。補助金に頼らない、エコという言葉を企業のエゴにしないとも決心しました。
あるとき、タオルを購入したお客様から「タオルは安全でも、子どもが柔軟剤の匂いがするタオルを口に入れるのが心配。人が飲めるぐらい安全な洗剤がほしい」と言われ、現在の拠点となる、山口県防府市の竹洗剤の製造会社に出合います。そこでは、おじいちゃん達が50年以上続く土の竹炭窯で竹炭を作り、その竹炭と灰汁、湧水だけで洗剤を作っていました。口に入れても安全で、すべてが自然に還る。これだと確信し、その事業を承継しました。
最初の数ヶ月は、おじいちゃん達と価値観の違いから衝突してばかりでしたね。私たちの事業に生きがいや楽しみを持って関わってもらえたらと思い、始めたのが「炭窯貯金」です。炭窯での作業量に応じて決まった額を貯金し、貯まったらみんなでバーベキューや温泉旅行などをしています。先人達が大切に守ってきてくれたことに対する尊敬とありがとうの気持ちを伝えたい。おじいちゃん達が炭窯にお茶を飲みに来てくれるだけで十分。そう思ってからは、親子のような関係に変わっていきました。
ものづくりで大事にしているのは、SDGsのなかの「作る責任と使う責任」です。製造業が、働く人、買う人、地域や環境など、それぞれに対して作る責任をしっかり考えていれば、汚染水が環境に流れ出ることも、むやみに化学物質を使うこともないはず。私たちの工場周辺では、水が浄化されてミネラル分が増えたことで、途絶えていた蛍が復活したんですよ。竹を伐採してから製品ができるまでに5ヶ月近くかかるので、酒を醸造するかのようだといわれますが、効率化・簡易化を優先すれば、必ずどこかに犠牲が生じてしまうので妥協はできません。新しい竹繊維専門の工場では、廃液や排水、排気、排熱など工場から出るものすべてを製品化しています。今、竹の無限の可能性が注目され、化粧品や抗菌剤、ペット用品など、さまざまな商品開発・製造も始まりました。私たちの使命は、日本の放置竹林を整備し、日本竹の付加価値を上げること。計画的に竹を伐採しながら新しい竹産業を創出し、いつか私たちが整備する必要がなくなるのが理想です。それには子ども達に竹の魅力を知ってもらうことが大切だと考え、2022年に「竹LABO」を開設しました。展示やワークショップなどを通じて竹に興味を持った子どもたちが、竹の可能性をもっと広げてくれるように。私がやれることは限られていますが、無限の可能性を秘めた竹で、未来につなげる環境を創りたいと考えています。