３月号のコラム「自分を愛すると病気が減る理由」のなかで、自分を愛するための魔法の言葉「ダメな自分でもいいよね」、「できないときもあってもいいよね」、「そんなときもあるよね」を繰り返し心のなかで唱えましょう、と紹介しました。この魔法の言葉を診察のときもストレスがある方にはお勧めしていますが、続けられなかったり、言葉を受け入れられなかったりする方が多いようです。自分でやってみたときも、この言葉を繰り返し唱えていると気分が悪くなり、吐き気を感じました。それでも続けていたらいい気分になれたのですが、このような負の感情をどうやって乗り越えるのかを説明したいと思います。

「良い自分」は認めることができるけど、「ダメな自分」は認められないという価値基準があると、ダメな自分のままではいけないと思って、「もっとがんばろう、ちゃんとしよう」という「べき」を作ってしまいます。「べき」を１００％達成しようと毎日がんばってしまうのですが、やればやるほどエネルギーは減少していきます。「ダメな自分でもいいよね」という言葉を唱えていると、ダメ人間になってしまいそうな気がして、言い続けることができなくなります。しかし、「ダメな自分でもいいよね」と受け入れることで、積み重ねてきた実績やスキルがなくなってしまうわけではありません。「べき」がこなせなくなるのは、時間とエネルギーが足りないからです。時間とエネルギーが十分あれば、もっとちゃんとできるし、がんばることができます。ちゃんとする、がんばるをやりすぎて疲弊してうまくいかないと感じているだけなのです。ダメな自分を認め、できない自分を認め、自己否定をやめると、エネルギーを充電することができます。エネルギーがいっぱいに充電されれば、また「ちゃんと、がんばる」ことができるようになるのです。「ダメな自分でもいいよね」を唱えてもダメ人間にはならないので、安心していっぱい唱えましょう。

「ダメな自分でもいいよね」と言うことで、過去のトラウマがうずく場合があります。幼いころにつらい経験をして、もう二度と同じようなつらい経験をしないようにがんばって克服してきた人は「ダメな自分でもいい」なんて信じられないし、ありえないと感じます。「ダメな自分に戻ってしまったら、またあのつらい思いを経験しなければいけないじゃないか」と怒りがわくかもしれません。「ダメな自分でもいいよね」と言えないときは少し休んで、また落ち着いてから言うようにしてみましょう。「ダメな自分でも」という言葉には、がんばる自分も、そうでない自分もどちらもいいよ、という含みをもたせています。休みながらやってみてください。

３月号でも少し触れましたが、「ダメな自分でもいいよね」と唱えることは、母親への反抗になっています。「ダメ」だと思っているのは、あくまでも母親の目線からの価値判断です。「自分のこういうところは、お母さんからするとダメだと言われるだろうなぁ」、だから「お母さんに嫌われないように、文句を言われないように、がんばってちゃんとしないといけない」という思考が無意識のうちに働いています。「ダメな自分でもいいよ」という言葉は、「お母さんは、私のこういうところをダメだと思っているだろうけど、私は私らしくこのままで行くんだよ！」という反抗の言葉になっています。思春期や反抗期にしっかり母親を否定できていれば、自分らしい生き方ができるようになります。なんらかの理由で反抗期をしっかりできなかった場合、母親の価値判断の基準が残ったままになっています。これは自分の意思ではなく、母親の価値観によって人生が決定されているかのような状態です。「ダメな自分でもいいよね」と唱え続け、自分の人生を取り戻しましょう。