それは「反射」ではない
7月号では、おなかの中にいる赤ちゃんが、外の世界の音や言葉のリズムを感じ取っている可能性について紹介しました。赤ちゃんは、生まれる前から学び始めています。
では、生まれてからはどうなのでしょう。発達に応じ、少しずつ学習していくという印象がありますが、最近の研究によると、赤ちゃんは「教えてもらうばかりの存在」ではありません。
生まれたばかりの赤ちゃんは、言葉を話せず、寝返りもできず、なにもできないように見えます。でも、その小さな体で、生後まもない時期からちゃんと周りの声を聞いて、顔を見て、相手の反応を感じ取っていることがわかっています。
たとえば、赤ちゃんは、あまり目が見えない時期から、人の顔を見ます。特に、自分のほうを見ている人に興味を示すことが知られています。声にも反応し、「相手が自分に反応してくれた」ということを感じ取るような行動まで見られます。
もちろん、赤ちゃんが「この人は私に話しかけている」と考えている、という意味ではありません。でも、視線や声、表情などを通して、人とのやり取りそのものに惹きつけられているようなのです。
新生児の社会的な能力は、これまで「反射的な反応」として片づけられてしまうこともありました。でも研究が積み重なるにつれて、赤ちゃんはただ刺激に反応しているだけではなく、周りの人との関係をつくっているのではないか、と考えられ始めました。
生まれてすぐの会話
2016年、フランスの研究者たちは、生後わずか2~4日の赤ちゃんとお母さんのやり取りを調べました。
お母さんが赤ちゃんに話しかけ、そのあと、赤ちゃんが声を出します。すると、赤ちゃんの発声のかなりの部分が、お母さんの発声後、1秒以内に起きていたそうです。なかには、わずか0,05秒ほどの間隔で声を返しているものもありました。
これを研究者たちは、とても早い段階の会話だと考えました。もちろん、赤ちゃんが言葉の意味を理解しているわけではありません。それでも、「声を出す→相手が反応する→また声を出す」というやり取りが、生まれたばかりの時期から見られるわけです。
そう考えると、赤ちゃんが「泣く」のも、生理現象とは少し違って見えてきます。おなかがすいた。眠い。暑い。抱っこしてほしい。まだ言葉を持たない赤ちゃんは、泣くことで大人になにかを伝えます。そして大人は、その泣き声を聞いて、抱き上げたり、授乳したり、声をかけたりする。その繰り返しのなかで、赤ちゃんは「自分がなにかをすると、相手が応えてくれる」という世界を少しずつ知っていきます。
すぐ応えることで信頼を育むという考え方もあれば、あえて応えず「ちょっと様子を見る」ことで、教える文化もあります。赤ちゃんの個性と環境のせめぎ合いでもあります。
前号では、赤ちゃんと関わることで、父親の脳が変化する可能性に触れました。親は、子どもと過ごすことで「親になっていく」。一方、赤ちゃんもまた、親とのやり取りを通して「人と一緒に生きること」を覚えます。子の誕生日は、親子が初めて「一緒に生きる」ことを始める日でもあります。だからこそ、日々の抱っこや授乳、父親の「産休」も大切で、身の回りの人との小さなやり取りの一つひとつが、赤ちゃんからの「はじめまして」なのです。
