先日、能登に行ってきました。「ようやく」という思いのある訪問でした。2024年の元日、能登半島を大地震が襲ったとき、私は手術が必要なほどの脊椎の神経障害を抱えていました。福島の原発事故のときのように、自分で車を走らせて駆けつけることができなかったのです。
そこで、震災直後にはお客様とともに積み立ててきたプレマ基金からの支援を、石川県の自然食品店「のっぽくん」の小浦むつみさんに託しました。能登出身で、土地の事情も人のつながりもよく知るむつみさんに、使い道のすべてをお任せしました。そのときには、遠くにいてヘルプマークを付けていた私が使い道を決めるより、現地を知り、信頼できる人の判断に委ねる。そのほうが、必要なところに必要なものが届くと考えたからです。
今回お邪魔したのは、その支援がつながった三か所です。お金がどのような人の手を通じ、なにを支えてきたのか。実際にお顔を見て、お話を伺いたいと思っていました。日頃からお買い物を通じて基金にお心を寄せてくださっている皆さんのご厚意は、こうして能登の暮らしを支える力になっています。改めて感謝を申し上げます。
輪島市三井町では、「のと復耕ラボ」の山本亮さん、尾垣吉彦さんにお会いしました。震災の直後は行政に代わるくらいの規模とマネージメント力でボランティアを組織し、物資の支援から大工的な補修、解体前の整理、ボランティアさんのケアに至るまでを休みなく主導されていた、プレマ基金の最大の支援先です。現在のラボでは、解体される家から古材を救い出し、森を手入れし、築150年を超える茅葺きの旧福島邸の再生にも取り組んでいます。古民家を防災の拠点や、外から訪れる人の滞在の場にしていく構想もあります。「復耕」で「復興」を目指す。ただ元どおりにするのではなく、もう一度、暮らしの土台を耕し直す。古い家を残すだけでなく、そこで人が集まり、学び、暮らし続けられる場所をつくろうとする前向きな姿に、私は心を動かされました。
珠洲の「自然農ガットポンポコ」のガットさんは、耕さず、草や虫を敵としない自然農で米や野菜を育て、ふだんから薪で煮炊きをする暮らしを営んでいます。ご自宅は倒壊しましたが、震災で電気が止まっても煮炊きができ、ご自身も地域の避難所の運営に2か月間携わられました。ここでいただいた、おくどさんで調理された自然食の料理は、滋味にあふれ、ほんとうにおいしかったです。
同じ珠洲市の三崎町で訪ねたのは、「GAIA復興支援プロジェクト」の岡嶋さんです。物資や人をつなぐ支援に取り組み、現在は有機の米作りにも踏み出されています。印象深かったのが、田の神様を家にお迎えし、ごちそうやお風呂でもてなす、能登の風習「アエノコト」です。岡嶋さんたちは、仮設の家にも神様をお迎えしました。家が壊れたからといって、その土地で大切にしてきたものまで失わなくてもいい。自然を敬い、目に見えない存在にも心を配る営みは、食料や建物を取り戻すこととは別の、しかし同じくらい大切なことなのです。
皆さんは、訪ねた私たちをあたたかく迎えてくださいました。自分たちもまだ大変な状況にありながら、地域のために力を尽くしている。その姿に触れると、支援する側、される側という分け方が、なんとも頼りなく思えてきます。私のほうこそ、これからどう生きるのかを教わることばかりでした。
しかし、「能登は素晴らしかった」で話を終えることはできません。地震に続いて豪雨にも襲われ、この豪雨に多くの人が心をくじかれました。暮らしを立て直す道のりは今も続いています。半島の先端へ向かうほど移動の選択肢は限られ、地理的な制約も大きく、珠洲市の人口は震災直前の約3分の2になっています。だからこそ、外から関わる人が増えることには、大きな意味があると思うのです。
能登の豊かさは、美しい海や里山を眺めるだけではわかりません。そこで育まれたものを食べ、暮らしている人と話すと、風景の見え方まで変わってきます。自然と人とのつながりが、展示物ではなく、今日の暮らしとして続いている。その価値を、遠くから見ているだけで理解したつもりになってはいけないと、あらためて感じました。
ですから、皆さんにもぜひ能登に行っていただきたいのです。なにか大きな役に立たなくては、と身構える必要はありません。営業しているお店で食べ、泊まり、買い物をし、出会った人と言葉を交わす。もちろん、それだけですべてが解決するわけではありません。それでも、なにも知らなかった土地が、顔の浮かぶだれかのいる場所になることは、決して小さな変化ではないはずです。私も帰路には能登島に立ち寄って、野生のイルカと一緒に泳いできました。ただ支援が必要な場所だといって、哀れみに行くつもりは毛頭なく、私はその土地と自然、人の営みを感じて、それらのすべてを楽しみ尽くしたいのです。「被災地を楽しむなんて」という後ろ向きの気持ちが、なにかを前に進めるとは私には思えないからです。
首都圏からなら、羽田空港と「のと里山空港」を結ぶ直行便があり、飛行時間はたった1時間です。思いのほか能登は近いのです。現地の方の暮らしを大切にしながら、無理のない旅をしていただければと思います。まずは、一人でも多くの人が能登を訪れ、能登を感じること。そして、帰ってからも忘れずに、また「楽しみに」行くこと。むつみさんがつないでくださったご縁を、私もこの先、大切にしていきます。皆さんにも、能登に会いたい人ができることを、心から願っています。
