水の力を呼び覚ますグラスウェアシリーズ
2010年、私は「一般消費財では欧州最大」といううたい文句に釣られて、ドイツの展示会を訪れました。とにかく広い会場に、数えきれないほどの出展者と商品が並んでいます。4日間歩き回りましたが、私の目にとまったのは、結局、この品だけでした。現在も私たちがご紹介している、『ネイチャーズデザイン』のグラスウェアです。
その場にいたのが、開発者であり、オーストリア人の建築家であったチョチョラさんと、販売を任されていたスイス人のアロイスさんでした。まず惹かれたのは、黄金比でデザインされた独特のシェイプです。しかし、実際に飲み比べてみると、同じ飲み物なのに、明らかに味が違う。この体験が、私にとってなにより大きな意味をもちました。美しい形を眺める楽しさに加え、毎日口にするものの味わいまで変わるのですから、これはおもしろいと思ったのです。
そして、私の心を動かしたのは、お二人の情熱でした。自分たちが生み出し、届けようとしているものを、ここまで愛している。その姿勢と、私自身が確かめた味の変化が重なり、日本の独占輸入元を引き受けることになったのです。私が商品を選ぶとき、その品のよさと、それをつくり、届ける人のあり方は、いつも切り離せません。
設計の根底にあるのは、自然の造形や音楽のなかにある調和を、暮らしの道具に活かそうという考えです。その一つが、1対1.618という黄金比でした。チョチョラさんは音楽家でもあり、建築と音楽、そして伝統的なガラス工芸との出合いから、この形を生み出しています。代表的な『アラジン・ウォーターサーバー』は、職人が木型を使い、伝統的な吹きガラスの技法で仕上げています。鉛を含まないガラスを用い、底面に「生命の花」を意味するフラワーオブライフの幾何学模様をあしらった品もあります。
使い方は、水を注いで2、3分ほど置くだけです。水のほか、ジュースやワインにも使えます。いつもの飲み物を、いつものように飲む。その習慣のなかで違いを感じられることにも、価値があります。森修焼の陶器のように遠赤外線の効果で水が変化するのではなく、形状そのものが水を変化させるのです!
その後、お二人には日本にも来ていただきました。私たちがどのような哲学で仕事をしているのか、どのようなお客様に、どんな思いで作品をお届けしているのか。それをしっかり理解していただくことが、長く一緒に仕事をするうえで大切だと考えたからです。そうして、お互いの仕事や考え方を理解し合いながら、とてもよい関係を長年にわたって育ててきました。一時は、私が筆で書いた文字をグラスのデザインに採用してくださったこともあります。欧州域内だけで販売された品でしたが、日本でこの品を届けている私の文字が、今度は欧州の人々の暮らしに届く。そんな交流も、この出会いから生まれました。
時間が証明してくれた、かたちの力
あれから16年が経ち、チョチョラさんもアロイスさんも、この会社を離れました。しかし、あのとき私が実感したこの品の価値は、いまも変わりません。むしろ欧州でも日本でも、そのよさを知る人が増え、市場は広がり続けています。人や会社の体制が変わっても、品物そのものがもつ価値は残り、使う人に伝わり続ける。そのことを、時間が証明しています。
私はここに、普遍的なデザインの力を感じています。宇宙の原理原則を踏まえ、自然の調和を形にしたものは、時代が変わっても、その価値を失わない。毎日使う器という、ごく身近なもののなかに、その原則が息づいているのです。いつもの水を注ぎ、少し待って、口にしてみる。私があの日ドイツで出会った驚きを、ご自身の感覚で確かめてください。
